10
朝起きたら肌身離さず卵を抱えて、夜寝るときにはベッド近くの籠に卵をおいて眠る。
そんなことを何度か繰り返した日の朝、言葉にするなら「むにゅっ」とした感覚で目が覚めた。
「・・・んぅ?」
頬に押し当てられる何か。
硬いか柔らかいかなら間違いなく柔らかい。
湿っているか乾いているかなら、ほんのり湿ってる・・・かもしれない。
「うー・・・?」
何だろう、とうっすら目を開ける。
霞がかった視界の中で見えたのは円らな瞳。
目があうなり、パチパチと瞬きをされた。
「・・・あ、れ?」
そこで初めて私の意識がゆっくりと覚醒してくる。
体を起こして何度か目をこすり、もう一度目を開いたその先。
起きた?と言わんばかりに首を傾げるポケモン。
水色っぽい体。
見ようによっては蛇っぽい胴に特徴的な形をした耳っぽい何か。
一瞬グリーンの手持ちかな?と思ったけど彼の手持ちでは見たことがない子。
そして恐る恐る視線を奥にずらす。
・・・籠の中の卵は割れていた。
「えっと、孵化したとか・・・?」
うん、とでも言うように首を縦に振られる。
「ミニリュウ、だよね?」
今度はもちろん!とでも言うように胸(?)を張ってくる目の前のポケモン。
「あわわわ・・・!」
感動のあまり、うまく声が出てこない。
とりあえず慌てて着替えて、ミニリュウを抱えて皆が居る部屋に向かった。
「お、おはようございますっ!」
「サツキちゃん、おはよう。・・・あら?」
「サツキ、おは・・・って、卵!孵化したのか!」
私を見て小首を傾げたナナミお姉ちゃんとは反対に、グリーンはガタンッと椅子から立ち上がり慌てながら私の元へ駆け寄ってきた。
「すげぇ、オレ間近でミニリュウなんて初めて見た・・・。やっぱ生まれたばっかは小さいんだな」
「へ?」
「図鑑にはさ、高さ1.8mって載ってるんだよ」
「へぇ・・・」
ほら、と使い込まれたポケモン図鑑を差し出して来るグリーン。
遠慮せずに覗き込めば、成る程「高さ1.8m、重さ3.3kg」の表記。今私の腕の中にいる子はその表記よりずっと小さいし軽い。
「ま、脱皮して大きくなるんだろ、そいつ。すげぇよな、あ、後サツキこれ」
「うん?」
差し出された物を確認せずに受け取れば、掌の上には空っぽのモンスターボール。傷もないからきっと新品。
よく理解できないまま、顔を上げれば呆れたようなグリーンと、その奥でクスクス笑ってるナナミお姉ちゃんが見えた。
「サツキちゃん。自分のポケモンなら1回はボールに入れてあげないと」
「・・・あ、そっか」
言われてようやく理解する。
そのままボールをミニリュウに軽く当てれば、赤い光と共にミニリュウはボールの中に吸い込まれていった。
「良かったな」
「後でおじいちゃんに見せてあげてね。研究所にいるから」
「うん」
ボールの中を見れば、パチクリと円らな瞳で私を見上げるミニリュウの姿。
間違いなく自分のポケモンと言うことにうれしさがこみ上げてくる。
「初めまして。よろしくね」
ボールの中に聞こえるように語りかける。
それに応えるように手の中でボールが2、3度揺れた。