07
2人が戻ってきて、前のような和やかな一時が戻ってくる。
・・・と考えていた私は、まだまだ世間の目を甘く見ていたらしい。
短期間で生まれたリーグの新チャンピオン。
片や世界的なポケモン研究者の孫。
片や悪の組織を壊滅させてしまった少年。
そんな2人を取材しようと、もしくは一目見ようとマサラに押しかける人が増えた。
まだ手順を踏んで・・・つまり常識を持って接してくれる人たちは良い。
中には非常識の固まりのような人や、下世話な人だって当然いる。
最初こそちゃんと相手をしていたグリーンとレッドだけど、彼らも言ってしまえばまだ10歳そこらの子ども。
同じことの繰り返しに嫌気が刺してきたのか、次第に相手をしないようになっていった。
やがて他に世間を賑わせるニュースが出てきたせいか、次第にマサラは落ち着きを取り戻し始めた。
けれど大人たちの振る舞いが、ほんの数ヶ月旅に出ただけの少年達に大きな影響を与えてしまった。
「・・・。・・・」
「ね、レッド」
「・・・ん」
「大丈夫だよ、大丈夫だから、ね」
まず元々少なかったレッドの口数が減ってしまい、顔から殆どの表情が抜け落ちた。
人と関わりたくない、そんな思いが如実に現れてしまったらしい。
その証拠にレッドがポケモンと接しているときは、その無表情に近い顔が緩められる。
そしてグリーンは大人ぶるというか、大人びてしまった。
きっと子どもだからと馬鹿にされたくない、と思う何かがあったのだろう。
それでも。
私が10歳になって旅に出て、戻ってきた時に2人に「ただいま」って言えるなら良かった。
「・・・ん?」
私の誕生日が近づいていたある日の夜。
外でバサバサと物音・・・と言うよりは羽音?がして目が覚めた。
眠い目を擦りながら、カーテンを開ければそこにいたのはリザードンに跨るレッド。
「・・・レッド・・・?」
「ごめん・・・起こしちゃった?」
「どこに、行くの?・・・違う、いなく・・・なるの?」
目の前のレッドは誰が見ても判るような旅に出かける姿。
しかも明らかに長期になると訴えてくる重装備。
思わず不安が口から零れた。
「・・・いなくはならないよ。・・・待つだけ」
「待つ・・・?」
「うん。だからね、サツキ」
今のレッドはやけに饒舌、ココ暫くからは考えられないぐらい。
そう考える私をよそにレッドはゆっくりと口を開く。
「強くなって、ぼくに会いに来て」
「え?」
「いくよ、リザードン」
どこに?!そう叫ぶ前にリザードンは一気に夜空へ急上昇。
マサラの町を旋回した後、真直ぐに何処かへ飛んで行ってしまった。
そしてその日の朝。
私が起きた時、既にレッドが書きおきを残して消えたと大騒ぎになっていた。
呆然とする私の脳裏にはグルグルとレッドの言葉だけが繰り返された。