伝われ元気!
「あーもーわからーん!」
翔くんの叫びが教室中に響き渡る。
教科書は机の上に投げ出され、さらにその上に翔くんの頭がごつんと落ちた。
痛そう。
「そもそも勉強とか苦手なんだよ。いや、アイドルになるために必要なことばっかってのはわかるけどさ。苦手意識なんてそんな簡単には消えないっつーか」
私はお勉強好きだから、全然苦じゃないけれど、苦手な人にとっては大変なことなんだろう。
追試のための勉強を始めて一時間。
できるだけわかりやすく教えてみると、翔くんはぐんぐん吸収していくから、集中さえできたら頭に入るのだと思う。
日向先生の言う通り、もとは悪くないんだろうな。
未だぶつぶつ言う翔くんが頭をあげる気配はない。
帽子もずり落ちて、床にご挨拶している。
体育の時間くらいしか見ることのない翔くんの頭頂部は、なんだか新鮮で可愛らしい。
なんて言ったらきっと怒るだろうから、口には出しません。
でも、触れるくらいなら、いいかな?
「……春歌?なにしてんの」
半分顔をあげた翔くんに睨まれた。
「えっと、なでなでを」
「なでなでって……」
なんだか手が止まらなくて、撫で続ける。
いつもは翔くんが私の頭を撫でてくれるけど、たまには逆もいいな。
「翔くんはいつも私を元気づけてくれるよね」
「家来を守るのが王子の役目だからな!」
「うん。だったら、王子を励ますのは家来の役目です」
私はこれで元気をもらってるから、少しでも返せたらって。
「……へへ、サンキュ。元気でてきた!」
翔くんはにっと笑って体を起こした。
「追試なんて余裕で合格してみせるぜ!」
私の手から伝われ元気
(……なぁ春歌、いつまで撫でてんだよ)
(なんか可愛いって思ったら止まらなくて)
(可愛いとか言うな!)
2010/07/24