貴方の歌声に恋したように



透明に伸びる高音に、くどくなく存在感あるビブラートに、胸が高鳴った。
この人には勝てる気がしない。だけど負けたくない。
ライバル、と言うにはおこがましい。
ただ、そこに辿り着きたいと思った。

彼―一ノ瀬トキヤが歌い終わると、クラス中が拍手の海。
皆が彼の歌に恋をした瞬間。
だというのに彼は嬉しそうな顔ひとつせず、ただ一礼して席についた。

余韻に浸りつつも、自己紹介は滞りなく進む。
けれで彼以上に印象に残る人は、少なくとも私にとってはいなかった。



「私、森尾綾那」
「……はい?」
「だから、私の名前。森尾綾那っていうの」
「はぁ、知ってますが」
「え、覚えててくれたんだ」
「自己紹介したでしょう。ある程度はわかりますよ」
「へぇ、凄いね。私、一ノ瀬くん以外、あんま覚えてないよ」

にこっと愛想よく笑っても、彼はただ「そうですか」と言うだけ。
この人、笑わないのかな。
でも、そんなところも、なんかかっこいいじゃん。
もっと、もっと一ノ瀬トキヤを知りたい。

「用はそれだけですか?早く練習に行きたいのですが」

にこにこ笑うだけの私を訝しげに窺う。
これといって用があったわけじゃないし、練習の邪魔したいわけでもない。

でもこれだけは伝えておきたかった。

「私、負けないから!一ノ瀬くんに追いついてみせるよ!」

拳を突き立て、宣言する。
彼はきっともっと上手くなる。
だから今までの倍以上の練習をしなければならない。
あぁ、忙しくなりそうだ。
でも心地よい焦り。



私の歌声に貴方が恋をするくらい



私だって成長してやるんだ!







2010/07/20
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