リミット
「限界ってどこまでの範囲を言うんだろうな」
ぽつりと呟いた翔の言葉は、自問しているようで、しかし曲作りに集中していた春歌にも確かに届いた。
「どうしたの、翔くん?」
軽く流すには重い声音に、目線を上げる。
声のわりに翔は普段通りで、春歌は僅かに安堵した。
「大したことじゃねーよ。ただ、例えば俺の出せる音域だって無限じゃない。もちろん練習次第で広げることはできるだろうけど、学園長みたいに低い声は無理がある。
あーーーーー。
これが今の俺の低音の限界だな」
春歌は頷いた。
翔の音域やクセなどは当然寸分違わず頭に入っている。
「声とかはこうやってすぐわかるんだけど、これが感情だったらどうだ?楽しさに限界とかってあんのかな?」
感情には限界なんてないのではと春歌が答えると、じゃあ嬉しすぎて死にそうだという表現は限界を定めた上でそれを越えて死に至ることを言ってるんじゃないのかと翔は返す。
「???なんだか翔くん、難しいこと考えてるね」
「王子はいろいろ考えるもんなんだよ!」
そういうものかと首を傾げると、翔は「俺様は天才だからな」とカラカラ笑った。
だって知りたいじゃないか。
いつダメになるかわからない爆弾を持つ身としては。
人より制限がかかっている分、人とは違う経験をしときたいんだ。
限界を越えた楽しさってどんなだろう?
お前ならそれを教えてくれる気がしたから。
2010/07/08