夢見る未来のぬくもり



油断していた。
まったくもって不覚だった。

手術も成功して、間違いなく健康になったものだから、勘違いしていたのだ。
体が丈夫になったからといって、風邪をひかないわけではない、ということを失念していた。

思えば、昨晩立ち眩みがした時点で注意しておくべきだった。
自分が健康であると信じこまず、無理して歌の練習とかしてないで、さっさと風呂に入って寝るべきだったのだ。

そうしたら、今、こんな状況にはなっていなかったはずである。

(ヤバい……のぼせそう……)



春歌の部屋で倒れた。
次の曲について語り合っていたところ、熱くなりすぎたのか、翔は急激な目眩を起こしたのだ。
昨夜から調子が良くなかったこと、さらに夜遅くまでレッスンしていたことを正直に話すと、ものすごく怒られた。

「無理しちゃダメです!体が資本なんですよ!」

だそうだ。春歌にだけは言われたくない。
ついこの間、曲作りに熱中しすぎて寝込んだのはどこのどいつだ。
そういえば、その時に「体が資本なんだぞ!」と言い聞かせた気がする。

倒れてからの春歌の行動は素早かった。
翔の額に触れ、僅か熱があることを確認すると、翔を自分のベッドに押し込み、体温計をくわえさせ、自身は氷枕の準備。
朝食は取ったのか聞かれたから、「食欲がなかった」と答えると、

「お粥を作ってくるので、少しでも食べてから、お薬飲みましょうね」

と言ってキッチンへと姿を消した。

急に静かになった部屋を見渡す。
女の子らしい部屋で、ぽかぽかすると同時に、どきどきする。
好きな女性の寝室だ。何をするわけでもないが、緊張しないわけがない。
布団にくるまると、春歌の良い匂いがして、鼓動が速まった。

(なんか、変な気分……)

ぬくもりと香りが心地好くて、眠気が襲ってくる。

(春歌と結婚したら、毎日こんなあったかいんだろうな……)

働かない頭で、翔はぼんやりとそう思った。



熱で夢見る未来のぬくもり






2012/03/04
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