まるで空中散歩



ふわふわ、というか

ぷかぷか、というか

こわごわ、というか


それは確かな実感がなくて、足元に何もないような恐怖感もどこかにあって

こんな不安定な気持ち





「じゃあ次。鎌倉幕府の成立年は?」
「フンッ。カンタンすぎるな。『いいコナ作ろう鎌倉幕府』で1157年だ!」

毎度お馴染み放課後の補習で、やはり毎度のことながら自信満々に答えた。
それを受けた悠里は軽くため息をつく。
「間違いよ」という意を含めたつもりだが、翼が気づく様子はない。

「ちなみに、どんな粉なの?」
「そうだな……幕府が作ろうとするほどだから、おそらく金粉か何か高級なものだろう」

もちろんそれくらい真壁財閥の技術をもってすれば簡単だがな、と高らかに笑う。
目の前の人物はどうしてこんなにもおバカなのだろう、と悠里は頭を抱えた。

「どうした、担任」
「何でもないわ……」

間違いを正そうと、頭をあげる。
そして驚いた。
あまりにも近すぎるところに翼の整いすぎた顔。
悠里は思わず「きゃっ」と軽い悲鳴をあげ、飛び退いた。

「なんだ。人の顔を見て逃げるとは……ああ、そうか。あまりにもこの俺のビボウに魅せられて気後れしたのだな!」
「ち、違うわよ!ただ、近かったから驚いただけです!」
「ほう……」

嘘ではない。
しかし翼の言う理由がまったくないとは言いきれない。
むしろ気後れするなというほうが無茶だ、と悠里は思う。

そうこう考えているうちに、また目の前には翼のアップ。
悠里の顔は真っ赤になり、逆に頭は真っ白になる。



ちゅっ



それは何かの間違いだろうか。

頬に擦った柔らかな感触
温かなぬくもり
微かに香る男性の匂い
視界に入る綺麗な白髪

「……つ、ばさ君?」
「なんだ、担任」
「何を……?」
「言わんとわからんのか」


kissをしただけだ



「な、ななななっ!!?」

悠里の顔はますます赤くなり、それを見て翼は愉快そうに笑う。

「ほう、おもしろい顔だな、担任」
「余計なお世話よ!」

なんてことするの!
悠里の抗議の声に耳を貸さず、翼はにやりとこう言った。

「嬉しかったのだろう?」





ふわふわ、というか

ぷかぷか、というか

こわごわ、というか


恐怖感も伴った、この不安定な気持ち


しかしそこには
どきどき、が一番多くて

楽しい、と感じることもあって



それはまるで空中散歩のように







2007/07/11
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