夢見る果実



それは歴史の補習の時のこと。

「翼君の家って、騎士とかいるの?」
「……what?」

別に聞き取れなかったわけでも、翼の辞書に『騎士』という単語がなかったわけでもない。
目の前の教師から出た質問にしてはあまりに陳腐だったため即答ができなかったのだ。

「何をとてちてたんなこてを言っている」
「……とんちんかんって言いたいの?」
「……とにかく、knightなどいるわけがないだろう」

そもそもいきなりなんなんだ。
今はヨーロッパの歴史を復習していて、十字軍やら教皇やらが出てきて。
ああそうかと思い至る。

「先生の中ではヨーロッパの歴史イコール騎士なのか。simpleな頭だな」
「翼君に言われたくないわ。いいじゃない。騎士って憧れるわ」
「なんだ、騎士になりたいのか?ならば俺の騎士にしてやってもいいぞ!存分に守るがいい!」
「そっちじゃないわよ!私が憧れるのは守られる方!」

大きく手を広げ、さぁ守れとふんぞり返る翼に、悠里のツッコミの手がおりた。

「守られる方……princessってことか?」

翼はまじまじと悠里を見た。
上から下まで見られて居心地の悪い悠里は僅かに頬を赤らめる。
生徒とはいえ、美形にこれほど見つめられて照れないなど無理な話である。

「な、なによ、どうせ似合わないわよ!」

耐えられなくなった悠里は眉を逆八の字にして翼を睨んだ。
しかし翼が堪えた様子はない。

「いや……合うんじゃないか?」
「え?」

悠里は目を丸くした。

「先生がprincessなら、俺がknightになってやってもいい」
「翼君が、ナイト?」
「不満か?」
「ううん!そんなことないけど」

突飛な申し出に驚き、なんとなく気恥ずかしい。
よく見ると翼も顔が赤い気がして、余計ドキマギする。

「……先生はいつも俺を守ってくれた」
「え?」
「出会った時から俺のknightだったんだ。だから今度は俺が先生を守る」

悠里の目から涙が溢れた。
出会った頃なら絶対に言わなかったであろう言葉を、あの翼が口にしているのだ。
翼はフッと笑って悠里の涙を優しく拭う。

「先生、手出してくれ」
「?……こう?」

何かと不思議に思いながら素直に差し出す。
手のひらを上にしていたそれは、翼によって逆さにされた。

「貴女に忠誠を誓おう」

手の甲に降ってきたのは優しい言葉と柔らかな口づけ。



夢見る果実にキスをした







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34200番キリリクで淋様に捧げます!


2010/01/03
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