悪魔な素直



最近、清春の様子がおかしい。
自分に対する悪戯の回数が明らかに減っているのを、悠里は感じていた。
総数が減っているのならばそれもいいだろう。
むしろ良い傾向として喜ぶべきことだ。
しかし違う。
悠里への悪戯が減るにつれて、他の人へのそれが増えていた。
これは由々しき事態である。

だがそれを止めようにも、清春をつきっきりで見張るわけにもいかない。
彼の補習に重点を置いているとはいえ、他のB6やClassXの生徒も受験を控えているのだ。
クラス担任として必然とそちらに割く時間も必要となってくる。

「センセー!この問題がわかんないよー」

授業の合間だけでなく、昼休み等にわざわざ職員室まで質問に来る生徒は少なくない。
これは他の教師陣も同様らしく、職員室は日に日に賑やかになっていた。

「これはね……」

わかりやすく噛み砕いて説明をする。
ClassXとはいえ、理解力が乏しいわけではないことは、接するうちにわかってきた。
丁寧に教えれば、時間は要するが確実に身に付けている。

「あ、そっか!わかった!ありがとうセンセー」

そんな生徒たちの成長を見るたびに、悠里は嬉しくなるのだ。

この調子で次の問題にうつろうとすると、騒がしく職員室の扉が開いた。

「先生、大変!」

その様子で何が起こったのか察した悠里は、ひとつ溜め息を吐いて立ち上がった。

「ごめんね、すぐ戻るから」
「いーよぉ。頑張ってね、センセー」



呼びにきた生徒とともに騒ぎの現場に向かう。
そこには廊下に散りばめられたとりもちと、それに足をとられた生徒たち。
原因の彼はすでに逃走済みらしく、救出作業が行われていた。
思った以上に広範囲で、悠里は頭を抱えた。





「清春君、今日も盛大にやらかしてくれたわね!」

補習時間の悠里の第一声はそれだった。
眉を逆八の字にし、これでもかというくらい自分なりに恐い顔をしてみる。
しかし堪えた様子のない清春は、なんのことだと惚けてみせた。

「お昼のとりもち事件、清春君の仕業でしょう!」
「ンだよ、オレ様しらねー。証拠でもあンのかァ?」
「目撃者多数すぎて疑うまでもなかったわよ!」

清春はチッと舌を打った。

「まったく。最近私以外への悪戯がひどいわよ」
「ンだァ?私だけを苛めてほしいわってかァ。キシシッ」
「そうじゃなくて!」

まったくこの口はどうしてこうも達者なのか。
悠里にはどうすれば彼がおとなしくなるか見当もつかない。
深く溜め息を吐くと、清春は口角をあげた。

「まァ、ブチャがど〜してもってンなら、オメェだけを苛めてやってもいいゼェ」
「やめるという選択肢はないの!?」
「ネェナ!」

断言しないでよ、と脱力する悠里を見て笑い、だがふと真顔になる。
美形の真顔というのはおそろしくドキリとするものだ。

「オレ様がテメェだけを苛めてやンだから、テメェもオレ様だけを見てろヨ」
「え……?」

それはもしかしなくとも、構ってほしいと言っているのではないか。
悠里は耳を疑った。
最近の悪戯はそんな意味を暗に秘めていたのか。

(まったく、子どもなんだから……)

でもそんな彼がひたすら愛しいと感じるのは、手のかかる可愛い教え子だからか、それとも。
どちらにせよ可愛らしいとは言いがたい彼の嫉妬心が可笑しくて、悠里は自然と笑っていた。



(清春君なりの素直さだったのね)



謎が解ければ、なんて彼らしい。







―――――
30800番キリリクで風音様に捧げます!


2009/03/12
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -