ララバイ
彼女の瞳はついに閉じられた。
時刻はもう深夜をまわる。
明日は休日だから、と来てくれた悠里ちゃんには申し訳ないけど、ボクはちょうど筆がのっていたところで。
放ったらかしなのを謝ると、
「イラストを描いてる悟郎君を見るのも好きだから、いいのよ」
だなんて。
まったく、嬉しいことを言ってくれるね。
そんな彼女の言葉に甘えて、一段落ついたので様子を窺うと、ボクのベッドの上で舟を漕いでいた。(こんな表現を使えるようになったのも彼女のおかげだ)
悠里ちゃんは学校で若いエネルギーを相手にしているのだから無理もない。
ボクももう寝てしまおう。
彼女を横にし、布団をかけた。
「悟郎君……?」
「あれ、起こしちゃった?」
ボクが苦笑うと、彼女は「寝てないわよ」と舌足らずに言う。
いくつも年が上だけど、こういうところが子どもっぽくて可愛らしい。
悠里ちゃんは体を起こしたが、ボクはベッドに横たわった。
「……寝るの?」
「うん、もう遅いよ」
「お話したいわ」
「明日ゆっくりデートしよう」
「眠くなんてないのに」
「じゃあ子守唄を歌ってあげる」
眠くないなんて嘘ばかり。
目が半分もあいてないじゃない。
早く寝て、早く起きて、お日様の下でおしゃべりしよう。
「私が歌ってあげる」
「いいんだよ。悠里ちゃんは寝てしまっても歌えるんだから」
どういうこと?と不思議そうな彼女を優しく抱き締める。
問いには答えず、ボクはメロディを奏でた。
ゆっくりしたテンポの四拍子。
彼女はすぐに意識を沈める。
さて、ボクも眠ろうか。
彼女の安らかな寝息と、規則正しい心臓の音を聞きながら。
ボクだけの子守唄
2008/12/06