深夜の戦い
仕事を終えて自宅へ帰ると、玄関の鍵が開いていた。
今朝は確かに閉めたはずだから、合鍵を持つ恋人が来ているのだろう。
「ただいまー」
「おう、悠里」
直前まで風呂にでも入っていたのだろうか、部屋では濡れ髪で上半身裸の清春がソファーに座ってテレビを見ていた。
「……なんて格好をしてるのよ!」
「ンだよ、今さら恥ずかしがる仲でもネェだロ?」
「そ、そりゃそうかもしれないけど……」
いくら何度も見ているからといって、好きな人の裸を見て照れないわけがない。
正直目のやり場に困るのだ。
そういった乙女心をわかってほしいものだ、と悠里は思った。
「おら、ンなトコ突っ立ってネェで座れヨ」
半ば脱力していたせいか、軽く腕を引かれただけで悠里は清春の胸に飛び込む状態となった。
清春はそれを満足そうに見て、ぎゅっと抱き締める。
「お疲れさん」
清春の口から出たとは思えない程の柔らかな声と台詞に悠里はギョッとした。
「え、どうしたの清春君!?」
「あぁん?」
「だ、だっていつもはそんなこと言わないのに!優しい清春君だなんて……なんか不気味……」
そこまで言ってハッとした。
かなり失礼なことを言っている。
恐る恐る清春の顔を窺うと、彼はにっこりと笑んでいた。
それは普段のニヤリと意地悪なものではなく、清秋に扮していた時のような天使の微笑み。
あぁなのに、それが逆に恐ろしく、背中に悪魔の羽のようなものが見えるのは目の錯覚であろうか。
否、確実に彼の何かのスイッチを押してしまったに違いない。
その証拠に、清春の瞳はひどく冷たく楽しそうに光っていた。
「そーかそーか、悠里は優しいオレ様などオレ様じゃネェって言いたいンだナ?優しくするくらいなら苛めてくだサイってカァ?キシシッ、オメーも大概Mだナァ!」
「ちょ、そこまでは言ってな……!」
「ククク、照れんなってェ!カワイイカワイイ悠里がそう望むンならァ?期待に応えなくちゃだよナァ?」
ニヤニヤと笑ながら清春は悠里をソファーに押し倒した。
そして悠里が抵抗する間も与えずに唇に噛みつく。
「……っっ!」
ピリッと走る痛みに眉をしかめ、悠里の背筋に冷や汗が流れた。
清春はそのまま顔中にキスをする。
「あ、あの清春君!私疲れてて、明日も仕事で、だから……」
「そうだよナァ。オレ様も休ませてやりたいゼ?」
そう言って清春は顔を少し離す。
悠里は安心したが、それを少し残念に思ってしまうのは複雑な乙女心として仕方のないことだ。
しかしホッとしたのも束の間。
今度は首筋に顔を埋める。
唇をあて、キツく吸った。
くっきりとついた赤い印を舐めあげ、次は鎖骨に歯をたてる。
どんどんとエスカレートしていく清春の行動に悠里は焦った。
「ちょっと、清春君、やめ……!」
「意地悪なオレ様がいいんダロ?」
熱のこもった声が胸元で聞こえる。
「喜べヨ。たっぷり苛めてやんゼ」
しっかりと口角があがり、うっすらと目が細められた彼お得意の表情に悠里が魅了されないわけがなく、結果流されてしまうあたり、本当に自分は苛められるのが好きなのかもしれない、と心の中で泣いた。
しかし明日のことを考えるとやはりこのままでいいわけがない。
どうやって彼を説得するか、悠里は頭をフル回転させた。
戦いはまだまだこれから
―――――
若干鬼畜というよりただのS……?;
27200番キリリクで永久ツバサ様に捧げます!
2008/09/24