僕と彼女の幸せの位置



ふと考える。
自分がいつ幸せを感じるのか。
例えば父親に会った後。
例えば一人で寝室にいる時。
そしてこうして補習を受けている時。

「どうしたの?翼君」

ボヤけていた意識が悠里の一声ではっきりした。

「なんだ担任。その平方な顔を近づけるな」
「それを言うなら平凡でしょ!ってそれも失礼じゃない!」

まったく心配して損した、と悠里は教科書をパラパラとめくった。

「ほら、ぼーっとしてないで補習続けるわよ。さっきまでのところで何か質問は?」

翼は自分のノートを見た。
そこには漢字が羅列しており、見ているだけで頭が痛くなる。

「大丈夫そう?」
「ふむ、そうだな」
「じゃあ次に進めるわね」

そう言って悠里は事前に作っておいたのだろうプリントを翼の目の前に置いた。

「少し時間をあげるから解いてみてね」

見ると傍線が引かれた片仮名を含む文章がいくつか並んでいる。
片仮名の部分を漢字にするようにということらしい。

カチ、ギセイ、ケムリ、コウフク―――

「……担任、質問だ」
「あら、なに?」
「お前はどんな時に幸せを感じる?」
「え?」

補習と全然関係ないじゃない、と悠里は言おうとしたが止めた。
先ほどもぼんやりしていたし、疲れているのかもしれない。
ならば休憩がてらに答えてあげよう、と思って考える。

「そうねぇ……美味しいものを食べたときとか、お風呂に入ってる時とか、幸せかな?」
「What!?お前はそんなことで幸せなのか!?」
「そんなことって、別にいいでしょ!じゃあ翼君はどうなの?」
「俺か?そうだな……美しいヴィーナスやマトリョーシカ……あれらを磨き眺めているときはムキムキするな」
「……ウキウキでしょ」
「……………」

なんとも微妙な言い間違いに、翼は思わず黙った。

「なによ、翼君だって私とそう変わらないじゃない」
「なんだと!この俺の高尚な趣味と担任のピンポンな娯楽を一緒にするな!」
「貧困!って誰がよ!?」

そりゃ翼君に比べたら貧しい楽しみかもしれないけど、私にとっては至福の一時なんだから、そう言って悠里はプリントをバシバシと叩いた。

「ほら、続きしなさい!」

彼女はどうやら機嫌を損ねてしまったようで、それでも翼のために補習をしようとする。
この根性に自分は負けたのだと思うと、胸の辺りが温かくなった。

どうしてだろう。
水玉模様のヴィーナスでもなく、水晶でできたマトリョーシカでもなく。
この平凡な担任を見ているだけで幸せを感じるなんて。

でも僅かに悔しさも感じるのは、彼女も同じように思っているわけではないから。



俺の側にいる時を、貴女が幸せと感じてくれればいいのに



(何か言った?翼君)
(……Nothing)







―――――
25000番キリリクで小雪様に捧げます!


2008/07/14
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -