君のこと、好きで好きで
どれだけ悪戯しかけても、ちっともヘコたれねェ。
つまんねェけど、おもしれェ。
初めて、このオレ様の心を揺さぶった女。
「こらー!待ちなさい!」
「待てと言われて待つかってェのォ!」
追ってくる悠里の手からひょいひょいと逃れるのは、聖帝の悪魔・清春である。
その手には愛用の水鉄砲が装備されており、隙あらば撃ってくるので廊下は水浸し。
これを後で校長にぐちぐち言われながら掃除をしないといけないと思うと、こっちこそ逃げたい気分になる悠里だが、とにかく今は目の前の悪魔を捕まえるのが最優先だ。
「いいかげんおとなしく捕まりなさい!」
「ブチャなんかにこのオレ様が捕まるワケねーダロ!」
クシシッと彼独特の笑みを浮かべると、清春は再び水鉄砲をかまえた。
引き金に力を込める。
水がかかった瞬間悠里がどんな反応をするか、それを想像すると笑いが止まらない。
だがその想像が実現することはなかった。
「おやおや、何をしてるんです、清春くん」
清春の背後には衣笠がにこにこと立っており、手にあった水鉄砲はヒョイッと没収されてしまった。
「衣笠先生!」
「ゲッ、オバケ!」
「いけませんよ、悠里先生を困らせては」
「うっせーヴァーカ!返しやがれェ!」
「駄目です」
清春を軽くあしらいながら歩いてくる衣笠が、悠里には神々しく見えた。
「ありがとうございます、衣笠先生!」
「いえいえ。これはぼくが預かっておきますから、先生は清春くんと廊下のお掃除を」
「なンっでオレ様がンなコトしなきゃなンねーンだヨ!フザケンナ!」
「終わったらこれ、お返ししますからねー」
「聞けヨ!」
水鉄砲の中身が良心的にただの水だったのが幸いして、掃除はそう大変でもなかった。
衣笠効果なのか、清春もおとなしく床を拭く。
一通り拭き終わったところで、雑巾を洗おうと水道に向かったときだった。
「キャッ!?」
「うおっとォ」
まだ残っていた水に足を滑らせ、悠里は後ろにいた清春に抱きとめられた。
「キシシッ。どんくせェの」
「う、うるさいわね!ちょっと油断しただけです!」
威勢良く言ってみても、この態勢では説得力の欠片もない。
そしてよくよく考えてみれば、かなり恥ずかしい態勢だ。
清春に引き寄せられ、態勢を整える。
「ありがとう」
「ったく重ェなァ」
「な!失礼でしょ!」
重い重いと言うわりには、悠里の腰にまわっている清春の腕が弱まることはなく、悠里は妙にドキドキした。
「あ、あの、清春君?もう離して……」
「ウッセェ」
腕の力がさらに強まる。
もうしばらくこうさせろ、口には出さないがそう言われている気がした。
いつもと違う清春の様子に、余計心臓が暴れる。
清春の唇が悠里の耳元にあり、かかる息が熱く、くすぐったい。
「オマエが……」
(好きすぎて、どうしたらいいンかわからねェ)
そう言おうとして、口をつぐむ。
今はまだ言うべきではないことを清春は知っているのだ。
「私が、なに?」
「……ンでもねーヨ!」
ぱっと体を離し、清春は自分の雑巾を洗う。
「オラ、貸せヨ」
そして悠里の雑巾を奪うように取り、ジャブジャブと洗った。
「あ、ありがとう」
清春らしくない行動に驚きつつも、悠里には笑顔が浮かぶ。
それを見た清春は僅かに頬を染め、すぐに顔を逸らした。
「貸しイッコだかンナァ!」
「もう!」
悪戯ばかりするのはかまってほしいから。
でもそんな笑顔を見れるなら、たまには優しくしてやってもいいかもしれない。
いろんな顔を見てみたいと思ったから。
だって君のこと、好きで好きで仕方ないんだ!
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24300番キリリクでりんご様に捧げます!
2008/06/24