ばかっぷるにつける薬はない



「あの、南先生?私が何かしましたか?」
「いいえ、別に何も」

何もないことはないだろう、と二階堂は溜め息を吐いた。
どうも先程から悠里に見られている、もとい睨まれている気がしてならない。
何かしてしまったのかと自分の言動を思い出してみるが、まったく心当たりがない。
だから本人に聞いてみたというのに、仏頂面でさっきの答えだ。

こうなると二階堂が直接的な原因ではないのだろうが、いったいどうしたのか。
はっきり言って、ずっと睨まれるのは気分のいいものではない。

「真田先生がどうかしましたか?」
「え!?」

ふと悠里が真田と話していたのを思い出して、当てずっぽうで言ってみた。
どうやら図星らしく、悠里は僅かに頬を染め、驚きをあらわにしている。
しかしすぐに目つきを鋭くして、再び自分を睨みだした。
二階堂はこの後の展開が手に取るようにわかった気がして、眉間を軽く指で揉んだ。

「二階堂先生は、私と真田先生の邪魔をして、そんなに楽しいですか!?」

邪魔をした覚えなどまったくない。
理不尽な怒りだと思いながら、二人を放っておくことができない自分に苦笑した。

「まぁ落ち着きなさい。何があったんです?」
「また約束キャンセルされたんです!『先輩と寄席に行くことになった』って!」
「……………」

そういえば今朝、真田を誘ったとき、どことなく焦っていた気がする。

(そうか、南先生と約束があったのか……)

彼女が怒るのももっともだ。
その矛先が自分にむけられているのは、やはり納得いかないが。

「……それは、真田先生が断らないのが悪いでしょう。私はお二人が約束していたことを知りませんでしたし」
「真田先生を虜にする二階堂先生が悪いんですー!」
「(勘弁してください……)わかりました。とにかく今度の寄席は私一人で行きますし、真田君にもよく言っておきます」
「ええ是非そうしてください!……でもね、二階堂先生」

今までぷりぷりと怒っていたのに、急に穏やかな笑みを浮かべる。

「たとえ先生が注意しなくても、真田先生ならすぐに私を優先してくれるようになるって信じてるんです」



まったく、このバカップルは!



(付き合うこっちの身にもなってください……)







2008/02/14
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