決着つけようか



「オーラァ!今日も可愛いなァ、澪!」

朝っぱらから元気に後ろから腕をまわしてきたのは、かの有名な仙道清春先輩。
彼の悪戯に引っかかってしまってからというものの、何故か気に入られてしまい、しつこいほど私にかまってくる。
私としては嬉しくないことも無いのだが、あの仙道先輩のことだから、私が本気になってもすぐに飽きて捨てられる、という思いがあって。
こんなことを思ってるなんて、先輩に失礼だとは思うけど、なかなか素直になれるわけがない。

「ちょ、やめてください!皆見てます!」
「アァン?別にいいだロォ。見せつけてやろォぜェ。それともナニカ?二人っきりの方がイイってかァ?クククッ」

何かを含むような言い方に、私の体は熱くなる。

「いいかげんにしてください!私にもうかまわないで!」

つい口走った言葉は、半分勢いで半分本気。
こんなこと言ってもどうせ聞いてくれない、という期待がなかったといえば嘘になる。
だから咄嗟に口を押さえたあと、縋るような目で先輩を見た。
しかし彼は、いつも弛んでいる表情を消していて。

「チッ。わーったヨ!」と言って去ってしまった。





どうせその時だけだろうと思っていた。
昼休みになったらまた現れて、ちょっかい出してくるのだと。
正直期待していた。

でも彼は来なかった。

校内で見かけても目すら合わず、合ってもすぐに逸らされる。
その度に私の心はチクチクと痛み、今朝の言葉を後悔する。
放課後になってもそれは変わらず。
少し素直になれば、こんな思いをすることなどなかったかもしれない。

もう嫌われてしまったのだろうか。

なんだか無性に泣きたくなって、私は屋上へと走った。





屋上には誰もいない。
ここなら思いきり泣ける。
声をあげて、涙をぼろぼろ流して。
誰も見ていないからできること。

「う…あ、先輩…清春先輩……」

思えば、私は一度も彼を名前で呼んだことはなかった。
なぜこんなにも意固地になっていたのだろう。
今なにを思っても、もう遅い。

「ンだよ、澪」

その癖のある声は、聞き間違えるはずがない。
たった一日聞かないだけで、ひどく懐かしい。

「オレ様がいなくて寂しかったロォ?」

なにもかも思い通りといった感じが癪だけど、私は頷いた。
もう見られたのだから、意地はる必要はない。
私の反応に満足したのか、彼は独特の笑いをし、私を後ろから優しく抱きしめた。



「そろそろ決着つけよーぜェ?」



(お前はオレ様がいないとダメなんだって認めろよ!)







2007/12/27
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