よるは始まったばかり



「遅くなっちゃったわね。ごめんね、清春君」

そう言って悠里は帰る準備をする。
夕飯を一緒にと約束しており清春が学校にわざわざ迎えにきたのだが(約束がなくとも毎日来るが)、悠里の仕事がなかなか終わらず、終わったころにはすでに九時をまわっていた。

「べっつにー。相変わらず忙しそうだなァ悠里」
「そうね」

たいして怒ってない様子の清春に悠里は安心して、職員室の電気を消した。
そして暗闇に包まれる。

「きゃっ!真っ暗!」

廊下の電気ついてなかったのね、と悠里は呟き、スイッチを手探りで見つけようとする。
しかしそれは清春の手によって阻まれた。

「清春君?」
「もう少しこのままでいようゼ。なんか興奮しねェ?」

妙に艶めかしい清春の声が耳のすぐ側で響いた。
悠里の心臓が異様なほど高鳴る。
暗くて表情がわからないが、きっと清春はニヤニヤと笑っているに違いない。
清春の表情を想像し、さっきの言葉を思い出すと、悠里の顔は真っ赤になった。

「おぅおぅ、真っ赤になっちゃってェ、かーわいいの!」
「な!って、え?清春君、見えてるの?」

こんなに真っ暗で何もみえるはずないのに。
目が慣れるにしても早すぎる。

「あァん?オレ様はなァ、どんなに暗くたってお前を見ることができるンだぜェ!キシシッ」

清春は得意そうに笑う。
大好きなその表情を見れないのは悔しいけれど、なんだか嬉しいと悠里は感じた。

「それよりヨォ悠里。さっき何で赤くなったンだよ?」
「えっ!そ、それは……」
「ンあ〜?えっちなコトでも考えちゃったワケェ?クククッ」
「!!」

図星をさされた悠里の顔は先程よりも色濃く染まる。
それを見た清春はやはりニヤリと笑い、悠里を力一杯抱き締めた。

「ンじゃあお望みどおり、これからいっぱい可愛がってやンよ、悠里」
「〜〜〜っ!で、でもほら!まだご飯食べてないし!」
「あぁ〜、じゃあメシ食ってからじっくり、な」

焦らなくてもいい。



夜はまだ始まったばかりなのだから







2007/09/02
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