貴方がいてこその



太陽の力によって熱された外とは正反対に、冷房のよく効いた教室。
目の前には必死に補習プリントに挑んでいる翼の姿。
彼が問題を解いている間に暇を感じた悠里は、眩しそうに目を細め外を眺めた。
もう夏も折り返しかぁ、などと思いながら。

(お盆なのに、なんで私学校にいるのかしら……)

いつもなら実家に帰っている時期のはずなのに。
悠里はため息を吐き、翼の様子をうかがう。

(そもそも翼君が……ん?)

何か忘れている気がする。
何か、とても大切な……

「おい、担任!」
「え?」

考え事に夢中になって、翼のことを忘れていた。
翼は呆れた風に悠里を見る。

「プリント。終わったぞ」
「ああ、はいはい」

悠里は慌ててプリントを受け取り、翼の顔を見てあっと思った。

「そうだ!明日、翼君の誕生日じゃない!」

いきなり声をあげた悠里に驚いた翼の眼鏡がずり落ちる。
しかしすぐに気をとりなおして、眉をしかめた。

「いきなり大声をだすんじゃない!驚くだろうが」
「あ、ごめんなさい」

苦笑いで謝る悠里に翼は再び呆れたようにため息をついた。

「さっさと採点しろ」
「そうね」

これ以上呆れられるのは教師としてのプライドが許さない。
悠里は赤ペンを取ってプリントを眺めた。

「あら、だいぶ正解に近くなってるわね」

おかしな回答もたくさんあるけど。
悠里は笑って言った。そして「そうだ!」と翼を見る。

「明日、補習お休みにしましょうか」
「……Why?」
「だって、誕生日まで勉強って嫌でしょう?だから私からの誕生日プレゼントってことで」
「……………」

我ながらいい案だ。そう悠里は笑んだ。
しかし翼はしばらく考え込んで、首を横に振った。

「いや、いい」
「え?」
「いつもどおり補習をしてくれ」
「なんで?いいの?」
「ああ」



だって貴方に会えない誕生日なんて



意味がないだろう?

なんて言えるわけがない、と翼は顔を赤くして外方を向いた。


(じゃあせめてケーキでも作ってきてあげようかな)







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二日遅れのハピバ☆

2007/08/16
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