つかまえてみて、幼き日の僕ごと



曇ることなど決してない星空を、B6と永田以外に見せることになるとは思わなかった。

熱で気が弱っていたからだろうか。
それとも……





「あれ?」

翼の部屋に作られたプラネタリウムで星を見ながら語り合っていたとき、悠里が何かに気付いたような声をだした。

「どうした?」
「ねぇ翼君。あの南十字星の上の……」
「俺様がどうかしたのか?」
「……あの真壁翼座の隣にある小さな星……」
「ああ……あれか……」

悠里が指差す小さな星は、ギラギラと輝く“真壁翼座”に圧倒されることなく、むしろ包み込むような温かな光を放っていた。
なんとなく翼が説明を渋っている気がして、悠里は「綺麗ね」と言って流そうとした。

「あれは、セアラ座だ」
「セアラ、座?」

優しいような、切ないような、複雑な表情で翼は言う。

「昔は母とこうしてよく星を見た。その時たまに南十字星の上に小さな星がでていてな」



『あれは翼の星ね。今はまだ小さいけれど、きっと翼と一緒に大きくなっていくんだわ』

母親の言葉が嬉しくて、小さかった翼はその星が自分の星だと信じて疑わなかった。

『じゃあ、あの横にある星は母さんだね』

幼い翼が指差す先を見て、セアラはそうね、と微笑んだ。



「その時の星があの二つだ」
「そう、だったの」

翼座とセアラ座。
この二つにそんな由来があったとは思いもしなかった悠里は何も言えなかった。

「……先生といると母のことを思い出す。重ねているのか……いや、違うな。もっと別の感情もちゃんとある……」

その呟きは小さすぎて、悠里には聞き取ることができなかった。
悠里は翼を見るが、翼は何でもないと首を横に振るだけ。


フと悠里天井にむかって手を伸ばす。

「先生?何をしている」
「うーん、なんか届きそうだなって思って」

そうしたら君の不安や思いを受けとめてあげれるかもしれない。
そう言って再び手を伸ばす。
そんな悠里の姿が頼もしくて。
翼は心から願った。



どうか。

どうか先生。



幼き日の僕ごと、つかまえてみてください。







2007/07/31
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