んにゃろーめ!



聖帝の小悪魔と呼ばれるこの天才清春様でも、なんとなく調子がでねェ時くらいあるってもんだ。
特に目立った悪戯をせず、結局補習の時間になってしまった。

「清春君、今日はおとなしいわね」

そうは言いながらも、いつオレに水鉄砲をくらわされてもいいように警戒しているあたり、本当にコイツは可愛いと思う。

「よぉブチャ。いたのか」
「いました!補習するんだから当たり前でしょう!」
「あー、うるせェな」

どうも今日はいけない。
イライラする。
このままではコイツに八つ当りしてしまいそうだ。
そうなる前に予防策をはっておかねェと。

「まぁ、オレ様ってばお前と違ってナイーヴだからなァ。カンチョー的になったりもするンだってェのっ」
「感傷的、ね」

呆れた風に溜息を吐いてツッコむブチャ。
それでもオレのことが心配だという目はかわらない。
その目がなんだか気に入らなくて、オレは視線を逸らした。

「なんか、清春君らしくない」

この女はどこまでオレをイライラさせれば気がすむのだろう。

「ラシクナイ〜?オレらしいってどんなんだってーの!」
「清春君は悪戯ばかりして、私たちを困らせてばっかで、捻くれてるけど、信頼できるいい子だわ」
「………っクソ!」

もう限界だった。
気づいた時にはコイツの胸ぐらを掴んで、押し倒していて。

「これでも信頼できるって?」
「……………」
「オレ様はイイコなんてヤツじゃねェ。お前に何がわかンだよ!知った風な口ききやがって」

ふるえていた。
コイツではなく、オレ自身が。

「わかるわよ」

コイツの、真直ぐオレを見つめてくる瞳が恐いと感じた。

「だてに毎日おいかけてるわけじゃないのよ」

わかっている。
コイツが毎日オレのことを考えて、理解しようとしてくれていることくらい。
オレのこの行動が、ただの八つ当りにすぎないことくらい。

力の抜けたオレを軽く押しのけて、ブチャは起き上がった。

「何で元気ないのか、言いたくないのなら言わなくてもいいわ。でも、私にできることなら力になるから。そのことは覚えてて」

今日は補習をお休みにしましょう。
そう笑って、ブチャは教室から出ていく。
不覚にも、その後ろ姿をかっこいい、と思ってしまった。


なんだか、いつもはオレが翻弄してやってるのに、今日は負けた気がして。
自分のガキっぽさを自覚させられた気がして。

叫ばずにはいられない。



「んにゃろーめ!」



それでも気分は浮上していた。







2007/07/18
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