かめらレンズの向こう側



撮影中って何を考えているの?


悠里の唐突な質問に、翼は少し焦った。

「なんだ、いきなり」
「前から気になってたのよ。すごく楽しそうだから」

だから、どんなことを考えてるのかなって。
翼は頭に手をやり、考える仕草をする。

「そうだな……。立ち方とか光の当たり具合とか俺のタンセイな顔をいかによりよく見せるかとか」
「そんなことまで考えてるの!?」

信じらんない、私には到底できないわ、と悠里は言う。

「……It's a joke」
「へ?」
「そんなこと、いちいち考えているわけがないだろう」

もちろん、少しは考慮しているがな。
翼は不敵に笑う。

「じゃあ本当は何を考えているのよ?」

いかにも、からかわれたことが不満です、といった顔で悠里は再度尋ねた。

「ふむ……やはり母親のことか」

どうしたら母のいた場所に近付けるか。
前まではそればかりを考えていたかもしれない。

「前?今は違うの?」

過去形になっていた翼の台詞が気になって、悠里は首を傾げた。
そんな彼女の様子を見て、翼は目を細め、悠里の頬に手を伸ばす。


「今は、悠里をこの俺に見惚れさすことを考えている」


愛しいものを見る目と、優しく頬を撫でる大きな手。
その上恥ずかしくなるような言葉を囁かれ、悠里の顔は真っ赤になった。



カメラレンズの向こう側には、愛しい彼女の優しい笑顔







2007/07/14
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