飴と鞭は必要ですか



料理が苦手というわけではないから、倫は頻繁におこうの手伝いをする。
特に客の多い日などは必ずだ。
そんな日に限って邪魔が入ることもしばしば。

「お、コレはなかなかイケるな」

ああもう、と倫は内心ため息を吐き、堂々とつまみ食いをする陸奥の手を軽く叩いた。

「いてっ!」
「もう、陸奥さんいい加減にしてください」
「何言ってんだ。オレは味見をだなぁ」
「けっこうです邪魔ですあっち行っててください」

すげなく言い捨てる倫に思いきり不満顔を向け、それすらも無視されたので、陸奥はしょぼんと肩を落として炊事場から出ていった。

「倫ちゃん、言いすぎたんじゃない?」
「大丈夫ですよ」

しょうがないなという顔で倫は微笑み、調理を再開した。





(なんだよ、あんなに言わなくてもいいじゃねぇか。折角このオレが直々に手伝いを……ってか、少しでも倫と一緒にいたかったのに……って、あ゙ー!何考えてんだオレ!)

今晩は陸奥も花柳館で夕飯を馳走になり、帰る時間になった。
しかし倫の態度に腹をたて、未だにむしゃくしゃしていたので、少し回り道をして帰ろうと思いながら外に出る。

「あ、陸奥さん!」

倫が陸奥を追って外に出てきた。
しかしその姿すらも今の陸奥の機嫌を悪くする要因となる。

「なんだよ、邪魔者はさっさと帰るぜ」

倫に腹をたてているのも本当だが、こんな風に子どもっぽく拗ねる自分も情けなくて、格好悪い。

「さっきはすみませんでした。これお詫びに」
「……?」

申し訳なさそうな倫に拍子抜けた陸奥は、倫が差し出すそれを見て首を捻った。

「団子?」
「お店ほど美味しくはありませんけど」
「オマエが作ったのか?」
「はい、陸奥さんに食べてもらいたくて」

その一言が嬉しくて、陸奥はみるみる表情を明るくする。
「サンキュ」と照れながら笑う陸奥に倫も微笑んだ。

「きつくあたって本当にすみませんでした。でも陸奥さんには作りかけではなく、自分で満足した出来の料理を食べてほしかったんです」

倫の頬に微かに染まっており、陸奥はそれ以上に顔を赤くした。
先程の怒りはどこへやら。

「あー、いや。オレが悪かった。もうつまみ食いはしねーから」
「本当ですか?ありがとうございます」

ふわっと笑う倫に、陸奥はさらに濃く頬を染めた。


彼を手懐けるには、



飴と鞭が必要です。







2007/12/08
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