自慢の得意技



「最低です」

倫の開口一番がそれで、陸奥は驚いた。
いきなり罵られムッとする。

「いきなりなんだよ」
「女を置いて逃げるなんて、最低な男のすることです」

すぐに昨日のデートのことだと思い至った。

「あ、あれはだなぁ」
「もうけっこうです。陸奥さんが下の下ということはよくわかりましたから」
「なっ……!」

自分が『中の下』と評価した女に『下の下』と言われた。
陸奥の自尊心がガラガラと崩れゆく。

「ま、待て!このオレが下の下だと!?んなわけあるか!!」
「なら、それを証明してください」
「あん?どうすりゃいいんだ?」
「そうですね……今日一日私に付き合ってください」

にっこりと笑う倫に、陸奥は寒気がした。

「付き合うって……」
「道場の大掃除をしましょう!」
「なに!?何でオレがそんなことしなきゃなんねーんだよ!?」

絶対に嫌だと騒ぐと、倫はこれ以上ないくらいに冷たい目をした。

「……まさか逃げるんですか?陸奥さんともあろう方が?それこそ下の下のさらに下をいくことになりますよ」
「ぐっ……」

これ以上倫と言い合っても、完全に陸奥が不利だということは明らかだ。
陸奥は「仕方ない」とため息をつき、嬉々として準備をする倫を見つめた。



自慢の得意技をもってしても、彼女からは逃げられない。







2007/11/16
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