その影にすら乱される
※なんか野村が弱くて設定が滅茶苦茶です
島原に足を踏み入れるのは、決して久しぶりなんかじゃない。
新選組の面々―特に局長や永倉さんはよく訪れるので、付き合いで(喜んで)お供するわけだ。
香久夜楼にだって何度が入った。
もちろん酒を交えに来るのが一番の目的だが、実は未だ払い終えてない金を渡すためだったりもする。
でもその隣に顔を出したことはなかった。
酒を入れたらそこまで気が回らなくなるし、金だけ渡しにくるときは大抵忙しい合間をぬってのことだった。
時間があわないのだ。
避けているわけでは、ない。
「乙乃さん、これ」
「ふん、確かに。これでやっと終わったねぇ」
「はは、ご迷惑おかけしました」
最後の支払い。
これで個人的にここに来る理由はなくなった。
もちろん知り合いなのだから遊びにくればいいのだが、そう、忙しいのだ。
「じゃ、俺はこれで」
「おや、もう行くのかい?隣に顔出しておやりよ。皆心配してたよ」
「……これでも忙しいんスよ。帰らないと」
「あの子、待ってるよ」
誰のことを指してるのかなどすぐわかる。
だけどだからと言って素直に頷く気にはなれなかった。
会いたくない、なんてことは決してない。
会いたくてたまらない。
でも、一度顔を出すと気持ちが揺らいでしまいそうで。
自分の心がそんなに弱いなんてこれっぽっちも思ってないけれど、そう思ってしまうほどには彼女のことを想っていた。
「帰ります」
まだ、会えない。
まだこっち側に傾いているうちは。
新選組に心染まるまでは、会えない。
―――――
第2回野村祭
2010/06/02
2010/08/08