生涯愛



『永倉新八が亡くなった』

その情報を仕入れてきたのは、生前の庵が可愛がっていた社員だった。

「そう、あの人が……」
「倫さん?」
「ああ、何でもないのですよ」

倫のなんともいえない表情が気になったのか、社員は首を傾げる。
しかし倫はただ微笑んで気にしないよう言った。

「永倉さんは、本当に長く生きられましたね」
「倫さんは永倉さんと面識があったんですよね?」
「ええ、ちょうど新選組が活躍していた頃にね」

新政府軍との戦いで離れてしまったけれど、彼が小樽にいたということは噂で聞いていた。
結婚をして子どもがいるということも、新選組のことを本で残そうとしていることも。
悲しいと思ったことはない。
自分が彼の側にいられないことを寂しいと思ったこともない。
良くない噂もあったけれど、彼の元気な様子を聞くことができたならそれだけで幸せになれた。

だけれど、ついに亡くなってしまった。
ならば今だけでも泣いていいだろうか。
自分の理不尽な想いをぶつけてしまってもいいだろうか。
つ、と倫の頬を涙が伝う。

「倫さん……?」
「あの人は、本当に素敵な方だったんです」
「そうなんでしょうね。倫さんが泣くほど死を悼む人ならば」

自分の頭を豪快に撫でた、優しくて大きな永倉の掌を思い出す。

『じゃあな』

ただそれだけを言って去る背中。
あの時この想いを告げていたならば、貴方の側にいられたのでしょうか。
貴方を支えることができたのでしょうか。
この世を去る貴方を看取ることができたのでしょうか。

だがそんなことは本当はどうでもいいのだ。
波瀾万丈に生きた彼が安らかに眠ることができたのなら、この世に希望を残して去ったのなら、自分はそれを喜んで受け入れ、彼の意志を継ぐ。

「あ、倫さん。お孫さんが来ましたよ」
「ええ、すぐ生きます」

彼にもう二度と逢えないのは残念だけれど、天国で再会できたなら、ただ一言伝えたい。



『お疲れさまでした』



(おばあちゃん、悲しいの?)
(いいえ、ホッとしたのよ)







2009/01/05
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