貴方に全てを捧げます



最近、島原にある花柳館という道場の娘が新選組に入隊した。
花柳館といえば情報屋としての一面を持っていることで裏では有名だし、永倉自身道場の隣に位置する香久夜楼には何度か足を踏み入れたことがある。
その娘―倫のことも見かけたことがあり、あんな小娘も鼠として働いているのかと感心したものだ。
相馬と野村の入隊を機によく屯所に訪れ、永倉とも話をするようになった。

その彼女がまさか入隊するとは。
もちろんこちらとしては嬉しいかぎりだ。
彼女の腕は確かだと保証されており、実証済みである。
何より、永倉はいつのまにか倫に惹かれていたのだ。
いつ死ぬかわからない状況とはいえ、好きな女が近くにいてくれるほど嬉しいことはない。

そしてその彼女は現在、永倉の部屋で居眠りをしていた。
お互いの非番が重なり、共に街へでも出ないかと永倉が誘ったので、朝早く訪ねてくれたのだろう。
その時永倉はまだ夢の中で、待っているうちに倫も眠ってしまったようだ。
約束は昼としていたはずなのに今ここにいるということは、それだけ楽しみにしてくれていたのだろうかと思うと、永倉の頬は自然と弛んだ。

かくん、と倫の頭が揺れる。
座ったまま眠るのは辛くないだろうか。
ふと思い、永倉はそっと倫の体を抱え、布団に横たえた。
永倉もまた共に入り、腕枕をしてやる。
スウスウと穏やかな寝息が聞こえる。
寝顔が可愛らしく、しかし見ているとなんとも妙な気分になるので、永倉も目を閉じた。
既成事実でも作ってしまおうかという考えが頭の片隅を過ったが、無視することにする。

ごそっと倫の体が動いた。
目を開けると彼女の目もぱっちり開いていて、「おう」と声をかけた途端に顔が真っ赤に染まった。

「え……と?」

起きると男と同じ布団に入っていて、その男に腕枕までされていたのだから、混乱して当然だ。

「安心しな。何もしてねぇよ」
「そ、そうですか」

ふっと息を吐いた倫が僅かに残念そうに見えて、そんな反応をされたら期待してしまう。
気恥ずかしさをごまかすために、永倉は倫の頭を優しくて撫でた。
それが心地よかったのか、倫はふわりと笑い、その笑顔にどきりとした永倉は、勘弁してくれと心の中で思った。

「それにしても、オメー俺が運んだことに気づかなかったのか?」
「えっと、はい」
「まったく、それじゃ鼠失格じゃねぇのか」

気配も読めないようでは仕事にならないだろう。
そう言うと、倫は恥ずかしそうに笑った。
気配自体は感じていたのだと。

「でも永倉さんだったから、たいして気にしなかったんだと思います。私が安心できるのは、永倉さんの前でだけですから」

これは殺し文句というやつではなかろうか。
女性とのアレコレには慣れているはずだったが、彼女の言葉に顔が熱くなってくるのがわかる。
そんな自分を見られたくなくて、彼女をぎゅっと抱き締めた。

「……安心しきられてるってのも複雑だけどな」
「永倉さんになら何されても良いってことですよ」
「……………!」

あぁ自分はこんなにも初だったろうか。
あぁ彼女は自分をどうしたいのか。



俺に全てをくれるというのか



そう尋ねると、きっと照れた笑顔で頷くのだろう。







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28400番キリリクで愁様に捧げます!


2008/10/14
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