花びら、つかまえた



桜色の道をゆっくりと歩く。
上から下まで視界いっばい、身体中が柔らかい色に包み込まれる。
こんな中彼と二人でお花見なんていいな、と思ってせっかく倫が勇気を出したというのに。



「うぉーい!酒がたんねーぞ!」
「ほらほら倫ちゃんも飲んで飲んで」
「いえ、あの私お酒はちょっと……」
「おら新八ー!飲み比べすっかー!」
「オメーはすぐ酔っちまうからつまんねぇんだよ!」


なんでこんなことになってしまったのだろうか。
原田を始めとした副長助勤や、相馬、野村といった一部の隊士たち。
倫は永倉と二人きりというつもりだったのに、こんなにも大所帯になってしまった。
もちろん楽しいのだけれど、こんなに人がいては永倉に話しかける隙すらない。
倫はお茶を飲みながらため息をついた。

「なんか、元気ないわね」

様子に気づいた鈴花が倫の隣に座った。
そんなことないですよ、とぎこちなく笑う倫に苦笑する。

「ごめんね。永倉さんと二人がよかったんでしょう?」
「あ……」

お見通しなのはやはり同じ女だからだろうかと思う。
僅かに頬を染めた倫に鈴花は優しい眼差しをおくった。

「そうだ!ねぇ倫さん、少し歩いてきたらどう?ここにいたらお酒の匂いで酔っちゃうでしょ」
「そうですね……じゃあ近くを散歩してきます」
「うん、いってらっしゃい」

鈴花の笑顔と騒々しい宴会場を背に、倫は桜の絨毯を踏みしめた。





舞い散る桜の花びらを掴もうとした。
綺麗に舞う花びらは倫の手から逃れ、他のそれらの元へ行ってしまう。
今でもおそらく新撰組の皆と騒いでいるであろう永倉のようで、倫は苦笑した。

「……皆に囲まれてる永倉さんも素敵だけど、たまには独り占めしたいんです」

空っぽの掌をぎゅっと握りしめる。
掴んだのは穏やかな空気だけ。

「そりゃあ悪かったな」
「え?」

振り返ると、辺りでも一際見事な木の下に永倉の姿。
倫に気配を悟られないあたり、酔っていてもさすがは副長助勤といったところであろうか。
足取りに危なっかしさもない。
素早く倫に近づくと、驚くその頭を優しく撫でた。

「オメーのその独占欲に気づいてやれねぇで悪かった」

桜庭に怒られちまった、と永倉は照れたように笑う。
だから自分に散歩を勧めたのか、と倫は鈴花の気遣いに感謝した。

「お詫びといっちゃあなんだが、一緒にどうだ?」

そう言って永倉は手に持っていた徳利を見せる。

「え、でも私……」
「ん?あぁ心配すんな。こん中は茶だ」

ちょうどいい入れ物がなかったんだと言って、永倉はその場にどかりと座り込んだ。
トクトクと茶を注ぎ、倫に差し出す。
その自由さとこれからの二人だけの時間に淡い好意を抱えて、倫はくすりと笑った。



花びら、やっとつかまえた







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21400番キリリクで唯様に捧げます!


2008/04/23
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