涙は枯れてしまった



足は自然と薩摩藩邸へと向いていた。
何故か、などと自問はしない。答えはわかりきっている。
ただ倫は三樹の側にいなければならないと思った。
藩邸に三樹はおらず、中村と、あまり親しいわけではない面々と、脱け殻になった富山がそこにいた。

「弥兵衛さんは……」
「見ての通りだ。また前のように……いや、前よりひどくなってしまった」
「そうですか……」

その姿は痛々しく、とても見ていられない。
富山にも支えてくれるような人が必要だろうが、倫ではその人になれない。
それができるのはきっと、伊東の実弟で、想いを受け継いだ三樹のみ。
まず彼が立ち直ることが、残された御陵衛士たちを支える最良の方法。





竹林の中に三樹の姿を見つけた。
人が来ることはめったにない場所であったから、一人になるには最適だったのだろう。
あまりにも人を寄せ付けない雰囲気を纏っていたので、倫は声をかけようか迷ったが、一人にしたままだと彼の場合いつまでも底にいそうな気がして。
意を決して名を呼ぶ。

「三樹さん、ここにいたのですか」

できるだけ普段どおりを心がける。
振り向いた三樹は、今にも泣きだしそうで、しかしすぐに笑顔をつくった。

「やあ、志月さん。来ていたのかい」

彼は普段どおりだった。
伊東が死んでからの、いつもの三樹だった。
それが悲しくて、倫は思わず顔をしかめた。

「ど、どうしたんだい?」

何か不快な思いをさせたのか、と三樹は焦るが、心にあたるものがない。
自分では完璧な態度をとっていたつもりだった。
だからこそ倫の言葉に目を見開くことになる。

「泣けばいいじゃないですか」

わざとらしい笑みを浮かべるなら、そうするくらいなら涙を見せて。
悲しみを心の奥にしまってしまわないで。

「きみはそんなに僕に泣けと言うのか」
「はい。枯れるまで泣いて、笑顔をつくるのはそれからでもいいじゃないですか」
「……そうだね、でも」



もう涙は枯れてしまったんだよ



だから今は笑顔をつくる時なんだ。







―――――
そして発展イベント3に続く。なんてね。

2008/01/29
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -