新たな居場所
宿にとってある陸奥の部屋に、客の来訪が知らされた。
誰が何の目的で来たのかわかりきっている。
才谷が亡くなってからというもの、彼女は陸奥を気に掛けてくれていたから。
「陸奥さん、こんにちは」
襖を開けて入ってきたのは、予想どおり倫だった。
倫は静かに部屋に入り、ちょこんと陸奥の隣に座る。
ふわりと香る倫の匂いに、陸奥はどきりとした。
「今日はお団子を持ってきたのです」
倫が包みを広げると、美味しそうな団子が姿を現した。
それは以前、陸奥が気に入ったと言った店のものだった。
さり気ない気遣いが身に染みる。
「すまねぇな。気遣わせちまってさ」
陸奥がぽつりと呟くと、倫は微笑んで首を横に振った。
「私が好きでやっていることです。あなたを支えてあげたいから」
人に好意を示されることに慣れていない陸奥は戸惑いを見せた。
それは彼女の本心なのか。ただの同情ではないのか。
自分は彼女を受け入れていいのか。
彼女が自分を理解してくれる一人になってくれるのか。
悩めども悩めども、答えなんて見つかるはずがなくて。
ただ倫の与えてくれるこの温かさは、陸奥の不安を容易に取りのぞく。
今はそれだけで十分な気がした。
気づけば陸奥は倫を抱き締めていた。
倫が驚くのがわかったが、かくいう陸奥こそが自分の行動に驚いている。
それでも放すことは決してしない。
倫の手がゆるゆると陸奥の背にまわされる。
陸奥はホッとして、さらにきつく倫を抱き締めた。
君が僕の新たな居場所となってくれるのでしょうか
2007/10/15