主導権を握るのは



目の前には倫ちゃんがいるわけで
その倫ちゃんは眠っているわけで
周りには誰も人がいないわけで
据え膳食わぬはなんとやら、とは言うけれども……
いやいややっぱりダメだって!





今日も今日とて良い天気。
最近は晴れが続いて、野村は嬉しくなった。
野村は晴れが好きだ。
たとえ暑かろうが寒かろうが、晴れというだけで開放的な気分になって心が弾む。
こんな日の散歩が一番空気を感じられるのだ。
それに、良いお天気だからという理由だけで彼女を誘っても咎められることはない。
“倫とともに散歩できる晴れの日”が一番好きだった。

だから今日も彼女を誘って外へ出ようと思った野村は倫の部屋を訪れた。
一声かけて襖を開ける。
しかし迎えてくれる笑顔はなく、その瞳は閉じられていた。
差し込む陽が心地よくてうたた寝してしまったのだろう。
その眠りは深いらしく、野村が近づいても反応はない。

「へぇ、珍しいなぁ」

せっかくだから見つめてみる。
十分に整った顔立ちは、美しいというよりも可愛らしい部類だと思う。
下手な男よりも強いだなんて、見た目からは到底わからない。
さらさらの髪は陽の光を受けてキラキラと煌めく。
白い肌、長い睫毛と視線を移し、最後には赤く色づく唇で目が止まった。

そして急に意識してしまう。
少し開いたそこからは微かに寝息が聞こえ、野村の理性を揺さぶる。


「おいしそー……だな……」

半ば無意識にそう呟き、しばらくして自分が何を言ったのか気づくと顔を真っ赤にした。

(わー!何言っちゃってんの俺!)

身体中が沸騰したように熱くなる。
しかし問題の唇から目を離すことはできなくて。
鼓動が早まるのを止められない。

次第に自分の顔が倫に近づいているのに気づいた。
野村がその気になれば、すぐさま口づけられる距離である。
無意識にそんな状態になっていたことに自分で驚き、そして恥ずかしくなって顔を離す。
やっとのことで目を瞑り、危ない危ないと呟いた。

「うん、やっぱダメだって。寝込みはまずすぎるだろ、よく耐えた俺」

ぼそぼそと自分に言い聞かせる。
目は閉じたまま。
だから一瞬わからなかったのだ。
胸元を掴まれ引き寄せられたことに。
そして唇にあたる柔らかいものの正体に。

「!!?」

慌てて目を開けると、そこには倫の顔があって。
近すぎるうえに混乱しているのもあって、倫がどんな表情をしているのかよくわからない。
ただ唇から伝わるぬくもりは僅かに震えていて、彼女の緊張も伝わってきた。

「早く、してくれないから……」

唇が離れたあとに倫は呟いた。
頬を茜に染め、瞳を潤ませて、野村を真っ直ぐに見つめる。

「えっと、起きてたの?」
「はい、ずっと」

ということは「おいしそう」発言も聞かれていたわけで。
野村は穴があったら入りたい気分になった。
真っ赤になって頭を抱えるその姿に、同じく真っ赤な倫はクスリと笑った。

「おいしかったですか?」
「……うん、とっても」



主導権は彼女に握られた







―――――
21700番キリリクで永久ツバサ様に捧げます!


2008/05/12
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -