ふり返れば別の人
期待に胸が膨らむ。
あぁだって、彼はこの河原に沿って歩くのをとても好んでいた。
天気のいい日は尚更だ。
ゆっくりゆっくり。
私の歩調にあわせてくれるから、少しでも長く一緒にいたかったから、わざと遅めに歩いたこともあった。
そして先にある茶屋を見つけると、「ちょっと休んでいこうか」と私が一番好きな笑顔で言うのだ。
二人で食べる団子は何よりも甘く、飲むお茶は何よりも美味しかった。
今でもその時のことが鮮明に思い出せる。
何度も何度も思い出して、また彼とあの道を歩きたいと願った。
今声をかけたら、それが叶うかもしれない。
前を歩くあの人ならきっと、
「うん、一緒に歩こうか」
と、お日様のように眩しいあの笑顔で手を差し伸べてくれるに違いない。
膨らみすぎた期待を声にのせて、私は彼の名を呼んだ。
「野村、さん……!」
思ったよりも出た声が擦れていて、彼に届くか心配だったけれど、前のあの人はちらりとこちらを見た。
でも振り返れば別の人
あぁ、彼はもうこの世にいないのだった。
2008/02/22