きっとあいにゆくよ
相馬が新選組への入隊を決めた。
それについて野村も共に行くことは、誰もが想像しえた事実だった。
もともと荷が少ないのもあってか、荷造りは着々とすまされ、もう部屋を出るだけ。
こうなってみるとなかなか淋しいもんだな、と野村は思った。
隣に立って一緒に部屋を見渡す相馬や、残される側の倫も、同じように思っているのだろうか、と少し笑った。
最後の夜は綺麗な月が出ていた。
いつもより辺りが明るい。
なんだか少しでも月に近付きたくなって、屋根へとあがった。
誰もいるわけないと思ったら、そこには倫がいて、野村は驚くと同時に、月の光を穏やかに受ける彼女に見惚れた。
「野村さんも、行ってしまわれるのですね」
「うん。止めても無駄だよ、倫ちゃん」
「別に止めはしませんけど」
「あれ〜?」
ちょっとくらい止めてほしかったな、とおどけつつも僅かに淋しさを含んだ表情で野村は笑う。
(淋しい、なんて思ってるのは俺だけだったのかな)
「野村さんは食客ですから。止めたって、行くのでしょう?」
「そりゃ、ね」
倫の顔から感情は読み取れない。
彼女にとって“別れ”とは慣れたものなのかもしれない。
今までだって食客たちとの別れを何度も経験したのかもしれない。
それでも、自分との別れは惜しんでほしかった。
自惚れと言われようとも、自分は倫の“特別”だという思いが野村の中にあった。
「倫ちゃんと離れるの、ちょっと淋しいな」
倫の体がぴくりと動く。
「……………でも、遊びに来てくれるんですよね?」
そこで初めて気づいた。倫の肩が微かに震えている。
彼女は“別れ”に慣れてなどいない。
ただ必死に淋しさをおさえこんでいるだけなのだ。
そんな倫の姿が健気で、とても愛しい。
気づくと倫を抱き締めていた。
こうすると倫の震えが直に伝わってきて。
野村は胸が締め付けられるような感覚に襲われる。
「絶対、君に逢いにくるよ」
耳元で優しく囁かれる野村の言葉に、倫はただ頷くだけだった。
2007/12/25