楽しいお掃除のススメ



「や〜、今日も疲れたねぇ」

手ぬぐいで汗を拭きながら、野村は笑った。
それは「疲れた」というより「いい汗かいた」程度に見えたが、倫は気にしないことにした。

「野村さん、まだ道場の掃除が残ってます」

手伝ってくれますよね、と無言でお願いしてくる倫から逃れる術を野村は知らなかった。

「まかせといてよ!……と言いたいところだけど、さすがに毎日だと飽きるよなぁ」

最近野村がほぼ毎日稽古に出るのをいいことに、倫はすかさず掃除の手伝いを頼んでいた。
無意識なのか意図してなのか、上目遣いで頼んでくる倫を無下に扱うことは野村にはできない。
ということで、毎日掃除をしている野村と倫である。
俺、雑巾がけの名人になるんじゃねーの?と本気で思ったりしている。

「飽きる飽きないの問題なんですか?」
「うん、重要なことだよ。どうせやるなら楽しくしたいじゃん?」

倫ちゃんと一緒なのは嬉しいんだけどさ、変化がないよなー、と野村は考えだした。
何か掃除を面白くする方法はないものか。

「そうだ!賭けしない?」

出た答えはごくありふれたものだった。

「賭け、ですか?」
「そ。雑巾掛け競争。どっちが早く雑巾掛けできるか競って、負けた方が団子かなにか奢るのさ!」

辰巳さんといい咲彦くんといい野村さんといい、何故花柳館の人たちはすぐに競いだすのだろう。
いや、競うことはいいことだけど、内容が内容だけに……
いろいろ呆れた倫だったが、気づいた時には雑巾を手にしていた。

「いい?じゃあ、よーい……始め!」





「倫ちゃんて……名人?」

はあはあと息をきらしながら野村は問う。
一方倫は少しも息が乱れていない。
結果は圧倒的差で倫の勝ちだった。

「別にそんなのではありません」

名人への道程はまだまだ遠いな、と野村は苦笑した。

「しょうがないな。じゃ、いこっか?」
「え?」
「団子、奢るよ」

野村は倫の手を取り歩きだす。
繋いだ手が温かくて、二人で出掛けるきっかけができて、倫は頬を弛ませた。



たまにはこんな楽しいお掃除



(……いいかもしれない)







2007/11/04
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