きっと、近いうち



「たまには、いいんじゃねぇか?」
「え、でも……」
「……………」

二人は陸奥の部屋で抱き合っていた。
陸奥の腕は倫の腰を抱き、倫の腕は陸奥の背中へと回っている。
この状況はもちろん合意の上である。
しかし倫は困っていた。
抱き合うのはもちろんドキドキして苦しいが、たまらなく嬉しい。
だが陸奥はそれだけでは足りないという。

彼には不満があった。
倫は可愛く、気立ても良い。
陸奥のことをよく考えてくれ、支えてくれている。
そんな倫への愛情表現を陸奥は怠ったことはない。
だからこそだろうか、愛の言葉が倫の口から滅多に出ないのは彼にとって残念なことであった。
彼女がそういう類いのことを苦手としているのは知っているし、想いを疑ったことなど一度もない。
だが不安になるのは仕方のないことなのだ。
倫を愛しているが故に、彼女からの言葉が欲しくなる。
もともと自分は欲張りな方であるから、我慢しろというのが存外無理な話である。
たとえ子どもと言われようと構わない。
それほど欲しいのだ。


「……たった一言だろ」
「そうですけど……」
「……わかった、いいよ。無理言って悪かったな」

陸奥はふっと笑う。
倫は今にも泣きそうで、決してそんな顔をさせたかったわけではない。
赤らんだ頬を撫でてやると、肩がぴくりと跳ね、目を細めた。
その反応が可愛らしく、愛しさが募る。
言葉じゃなくてもちゃんと倫は想いを伝えてくれている。
それ以上を求めるのは贅沢なのだろうか。
彼女に求めたい、だが困らせたくない。
自分の中で盾と矛が戦う。

「あの、陸奥さん……」
「ん?」
「えっと、その……」

倫は恥ずかしいのか、耳まで真っ赤にして瞳を潤ませていた。
陸奥が黙ってしまったのは自分のせいだと思ったのだろう。
間違いではないが、明らかに彼女の心の準備はできていない。

「倫、無理すんな」
「でも……!」
「いいから。オマエがオレのこと好いてくれてんのはちゃんとわかってっから。無理強いして悪かったな」

なるべく優しい声で言ってやる。
倫はふにゃりと顔を崩した。

「愛してる」


愛してる、愛してると陸奥は倫の背中を擦りながら何度も囁く。
倫は陸奥の胸に顔を埋め、いっぱいに息を吸い込む。
彼の香りで胸がいっぱいになった。
さらりと心地の良い黒髪が倫の髪に混じる。
繰り返される愛の言葉は倫の耳を擽り、心を満たしていった。
こんなに溢れそうなくらい言葉を貰っているのに、少しも返せていない自分が情けない。

倫はぎゅっと腕に力を込める。
このまま彼と一つになれたら、この伝えきれない想いも全て伝わるだろうか。
そんなことは到底無理な話で、やはり言葉にしなければ伝わらないのだ。

倫の不安定な心を察したのか、陸奥も腕に力を込めた。
ぎゅうぎゅうと、これでもかというくらいにお互いを抱き締める。

「陸奥さん……」

倫の声はくぐもっていた。
顔を埋めているのだから当然だ。
陸奥さん、陸奥さんと倫は名を呼び続ける。
まだ、これが精一杯だった。



だけど、きっと、近いうち



「愛してる」と必ず伝えるから……







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29100番キリリクで藍様に捧げます!


2008/11/24
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