窓の外が一面真っ白に染まるのは、何度見ても現実味に欠ける奇妙な光景だと思う。ペンを動かす手を止め、必要最低限しか詰められていない鞄を手に、窓を開けた。

「迎えに来たよ」

彼の声より早く、飛び込んできた風に机の上のノートがはためく。白い龍に跨り、手を差し伸べてきた彼は何処かの王子様のようで、相変わらず派手な待ち合わせの仕方だと思う。
プラズマ団の王とチャンピオンという肩書きを気にするなら、もっと他の手段を取ればいいのに、と呆れながらもそれを告げないのは、単にこの時間を私も楽しみにしているから。

「急上昇するから、気をつけて」
「私にそれを言うの?」

レシラムと同じ色のコートに身を包んだ彼は、そうだったねと言いながらも、私の手を取り、柔らかい笑みを浮かべた。景色はどんどん変わっていき、足元の街はおもちゃみたいな小さなものになっていく。見慣れた景色だけど、夜と昼ではその表情は大違い。

「あの辺りが、キミの故郷になるのかな」
「多分ね」

繋がれていない方の手で示されたのは、先程まで私がいたところ。昼は美しい緑に染まるはずの街も、今は少しの街明かりによって彩られている。都会はもっと明るくて、イルミネーションみたいに綺麗なんだろう。そう呟くと、Nは首を横に振った。

「……ボクは、昔絵本が好きだった。特に美しい夜の景色を描いたものが」
「?」
「そんなもの現実には存在しないと思っていたんだけど」

見てご覧。その言葉に従って、再び視線を向けた地上は、また違って見えた。
決してカラフルでも派手でもないけれど、ぽつぽつと存在を示す明かりや深い色に染まる森が。BGMがわりの風の音や匂いが。
雄大な世界で、二人ぼっちで、手の平から全身へと伝わる体温が。どれもこれもが、夢を見ているみたいだと思った。

「隣にはキミがいて、誰にも邪魔されることはなくて」

手を強く握り直したのにつられ顔を上げると、よく知った美しい青年と目があった。緑色の瞳はどこかの宝石のようで、街明かりに見劣りしないくらい美しい、なんて。ロマンチックな夜くらい、そんなことを思っても許されないだろうか。
どうしたの。内緒。そんな、なんてことない会話が愛おしくて、今度は私から手を重ねる。すると彼は、とても自然に、見惚れてしまう程幸せそうな笑みを浮かべたのだった。

「ほんと、最高」



end.




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