ソファーに腰掛けながら、録画したテレビに夢中になる彼に近づく、が気がついていないらしい。隣に座ればさすがに気づくだろうと行動を起こすも、反応が返って来ることはなく、依然彼はテレビ画面に釘付けになったままだ。
つまらない。思い切って膝の上に寝転ぶと、ようやくめんどくさそうな声が上から降ってきた。ただし視線は動かないまま。

「……何の用だ」
「別にー。それ見るの二回目じゃない?」

重い、と抗議の声が上がるが、受け付けるつもりはない。勉強熱心なのも知っているし、そんなソウルは嫌いじゃないし応援したいと思っているが、ここまで無下に扱われると腹も立つというものだ。

「一度じゃ足りない」
「ダブルバトルの勉強なのに?」
「シングルもダブルも関係ない」
「でもリーグ戦はシングルでしょ?」

無言になったソウルは、リモコンを手に取ると一時停止ボタンを押した。画面いっぱいに、ソウルと知らない女性のアップが映し出される。あ、怒らせちゃったな。声を聞くより早く、私の頭が判断した。

「大会はそれだけじゃないだろ」

ほら、ね。
いつもより低くなった声が怖くないと言えば嘘になるが、そして彼の機嫌を戻通りにする術を知らないと言えばまるっきり嘘になるが。しかし私は答えることなく、何をすることもなく、垂れた赤髪を右手の人さし指で弄ぶ。
テレビ画面は止まり続け、会話もない状況に痺れを切らしたのはソウルの方で。ようやく降りてきた視線に、私は満足気な表情を浮かべているのだろう。

「……ダブルバトルはどうだった?」
「技のコンビネーションや状況判断能力、周囲を見る力。シングルで活かせる収穫があった。ところでさっきから会話が成り立たないんだが」

そうだろうね。だって会話するつもりがあったわけじゃないから。そう返したのは心の中だけ。
右手は相変わらず赤に触れたまま、左手に当たったリモコンを払いのける。派手な音を立てて落ちていった罪のないそれを彼は拾おうとするが、横たわった私がそれを阻む。ソウルの機嫌が更に悪くなるかと少し心配したが、どうやらその必要はなかったようだ。

「今更、何妬いてるんだよ」

めったに笑わない彼の笑顔は、意外と幼い。テレビ画面には一度も映らなかった表情だ。そしてこの表情を変えるのも、案外容易いもので。

「だって好きだし」

愛を囁くときは、目を逸らさない方が効果的。私たちの付き合いは決して短くはない。
ただし小悪魔みたいだから、普段は使わないとっておきだけど。

「今更、何照れてるの」
「……今更じゃねェよ」

想像通りの答えに満足し、私はゆっくりと体を起こした。滑らかな髪と同じ色に耳を染めた彼を見るのは久しぶりで、思わずからかいたくなる。

「可愛い」
「黙れ」

こんな慣れたやり取りでも、伝わる温度は毎回微妙に違う。もちろんそれは他人から見れば分からない程度のものかもしれないけど。

「あ、続き見る?」
「どうせ拗ねるんだろ、お前」
「うん」
「ったく。面倒な奴」

ソウルは拾い上げたリモコンの電源ボタンを押して、不満を述べる。彼は、ライバルとも友達とも違った表情を浮かべていた。


end.

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そっけないけど、友達みたいだけど、ずっと大好きな二人。
がテーマでした。





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