(診療所を営むNと主婦ホワイト)



目覚まし時計のセットを間違えたせいでいつもより早く目覚めたボクらは、朝食後の紅茶を楽しんでいた。

「今朝のパン、とても美味しかったよ」
「私も。近所の人に薦められて買ってみたんだけど、当たりだったね」

ボクはストレートティーで、ホワイトは砂糖たっぷりのミルクティー。カップの中身は違っても、朝日が差し込む部屋でのブレイクタイムは、等しく穏やかな時を与えてくれる。
趣味の読書や仕事でつい夜更かししてしまい、目を擦りながらの朝食になることが度々あった。少し早起きするだけで幸せな気分になれるならこんな生活も悪くないなと思う一方で、減りそうにない本の山のことを考えるとその意思は簡単に揺らいでしまう。

「次早起きした時にはココアが飲みたいなあ。朝食にはハムと卵とトマトのサンドウィッチとか」
「つぎ、ね」

目をきらきらと輝かせて話すホワイトを見ていると、思わずこちらまで楽しくなってくる。ただもうじき訪れる冬の寒さと、あのベッドのぬくもりに勝利しなければ当分次は来ないだろうけど。
カーテンが風にはためくのと一緒に、玄関のドアに取り付けられた鈴の音が響いた。

「先生、おはようございます!」

真面目な看護士君はいつも時間通りに診療所を訪れ、階下からボクを呼ぶ。

「行かないでいいの?」
「これを飲み終わってから」

カップの中身はまだ三分の一程残っている。まったく。こんな日ぐらい多少遅刻してくれたっていいのに。ホワイトはそんなボクのわがままを見透かしたようにクスクスと笑い、ごちそうさまと手を合わせてから席を立つ。彼女は流しにでも向かうのかと思えば、クローゼットの中から白衣を取り出し戻ってきた。

「行ってらっしゃい、N先生」
「……キミも酷い奴だ」

ボクの気持ちを知りながら微笑むのだから。仕方なく残りを飲み干し、カップと引き替えに仕事着を受け取る。

「今日もかっこいいよ」
「それはどうも」

口先だけのお礼を述べてから、人差し指と中指を押し付けて彼女の憎らしい口を塞ぐ。反撃成功。その独特な弾力を指先で何度か楽しむと迷惑よ、と優しく払いのけられてしまった。
白衣の袖を通して、今度こそ台所に向かったホワイトの背に行ってくるよと告げる。
「N先生!あの昨日の」
「今行くよ」

看護士君の呼びかけにわざと被せて返答すると、キッチンにいる彼女が吹き出したのが聞こえた。
ああ、また仕事だ。しかしいつまでも看護士君を放置しているわけにもいかないので、いつもより僅かに軽い足取りで階段を駆け降りて、そうして今日が始まった。




end.





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