新調した帽子を深く被り、長い髪は目立たないようその中へ。防寒着も兼ねた厚手のジャケットを羽織れば、誰もボクだと気づかない。
初めて彼女と一戦交えたあの場所へ戻ると、街は何一つ変わっていなかった。空とコンクリートと建物の中で、ヒトとトモダチが笑っていた。
ベンチに腰掛けていると見覚えのあるチョロネコが足元に擦り寄ってくる。久しぶりだね。抱き抱えた体が一回り大きくなったことを知り安心する。

「もう行かなきゃ」

住人がボクをボクだと気づかなくても、自分はここに長居していいニンゲンじゃない。名残惜しいけれどチョロネコから離れると、彼は背中に飛びついてきた。

「……共に行くかい?」

チョロネコを肩に乗せ、相も変わらず平和な街を去る。空は青いし、海はもっと青いし、トモダチは愛おしい。本当に、何も変わってないじゃないか。
帽子を被り直し、行き先も決めずに歩き出す。一度目にしたことのある景色に新鮮味を覚えることも出来ないまま、足取りは軽快なものだった。




ボクは生きてゆく。





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