(ガラガラが亡くなった話なので一応注意)






外では雨がぱらぱらと降り出していた。まだ正午を回ったばかりなのに空はどんよりした色へと変わっていく。今窓からこの景色を見て、溜め息をついている者は多いだろう。
現チャンピオン、レッドもその一人だった。

「通り雨じゃない、か」

天気予報では晴れだったのに、小さく嘆く少年に相棒も「ピカー……」と憂鬱そうな鳴き声で答える。ピカチュウのには劣るけれど、地響きのする雷まで鳴り出した。レッドは溜め息をつく。

冷たい床にストンと膝をついて、静かに目を閉じた。雨風が大きな窓を叩き雷が唸りを上げたが、今度は何も反応しない。音を立てずにゆっくり手を合わせる。心の中で詫びる。
まずは来るのが遅くなったことを。

決して忘れてたわけじゃない。ただあの事件はレッドにとって衝撃的すぎただけだ。
のどかな町出身の少年の周りは、心の優しい人が多かった。人間とポケモンが幸せに暮らしていた。それが当たり前だった。
だから人間がポケモンを殺す、なんて信じていなかったんだ。あのガラガラに会うまでは。

しばらくして目を開けたレッドはピカチュウに話し掛けた。

「いいよ、ピカチュウ」
「ピ?」

ピカチュウの大きな目がレッドを見る。頭を撫でると嬉しそうな声が上がった。

「泣いても、いいよ」

レッドのピカチュウは賢い。きっと主人の言ってることも本当の意味も分かっているだろう。
その証拠に黄色の小さな手が、旅に出たときより少し大きくなった背中をまるで親が子どもをあやすように撫でた。

それに「ありがとう」と答え、レッドは相棒の手を優しく、けれど確実に振り払った。もう一度ありがとう、と呟いたのは感謝してるよとちゃんと伝えるためだろう。

「悪いのは人間だから」
「……ピカピカ」

長い耳がふるふると左右に揺れた。
違うよ、違う。人の言葉に直せばこんな感じだろうか。そんなことを考えながら、レッドはまたピカチュウの頭にぽんと手を置く。落ち着く暖かさに少年は小さな笑みを見せた。

「ねぇ、ピカチュウ」
「ピカ?」

相変わらず雨風が強い。レッドのバッグの中のレインコートは役に立たないだろうし、この天候ではリザードンは飛べない。

「雨が止んだらフジ老人の家に行こうか」
「ピカピカ?」
「うん、カラカラに会いに」俺のことなんて知ってるはずがないけれど。
レッドはまた膝をついて手を合わせて、今度は心の中で強く思う。
ロケット団も同じようなことをする人間も、俺は許さない。ガラガラも俺たちを許さなくていいから、だから。

「ピッカ!」
「何。雨が……止んだ?」
「ピ」

うるさい音は消えていた。窓からは優しい光が入り込む。
安い映画じゃないんだから。呟いてからレッドはもう一度手を合わせ、そして立ち上がりピカチュウに笑って声をかけ、振り返らず建物を後にした。
――だからもういないあなたの代わりに、カラカラを抱きしめさせて下さい。

今は俺が抱きしめられる立場じゃ駄目なんだよ。なあピカチュウ。



end.



―――――――
親子と、死に責任を感じている少年の話。

一度は書きたかった話だけど不完全燃焼…




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