title by 確かに恋だった



『それじゃあ、またね』
「ああ」
『おやすみ』


約一時間前のこと。突然掛かってきた電話を取ると、アイツは挨拶もなしに「外を見て」なんて言ってきた。ポケモンセンター内の宿でタウンマップを広げていたオレは仕方なく、急かされるまま窓を開け小さなベランダへ足を運ぶ。生温い空気が身体を包んだ。

『星が綺麗じゃない?』
「残念だったな。こっちは曇り空だ」
「あ……」

天候の違いまで考えていなかったらしい。外は星どころか月さえ見えない真っ暗闇。馬鹿な奴、と思ったがポケギアの向こうで分かりやすく残念がるコトネに免じて言わないでおいてやる。

オレの二度目の旅は順調そのものだった。手持ちの奴らのレベルが高い上に旅に最低限必要な技術は身につけているおかげだろう。それに加え、いつ悪さをするか分からないロケット団のような輩もいない。
ただコトネやワタルのように、倒したいと躍起になって追いかけている奴もいない平和で穏やかな旅。

『コガネのラジオ塔の屋上から見る星は素敵だよね』
「屋上?」
『あ、行ったことない?じゃあ今度一緒に行こうよ。本当に絶景だから』

ラジオ塔にはいい思い出がないがそれも過去の話。そしてそのラジオ塔を救ったのは。実現するか分からない約束をするのはこれで何度目になるだろうか。
その後は「旅はどう?」「そっちはどうだ」という他愛もない話をした。受話器越しのやり取りに自然と口元が緩む。いつものようにバトルやトレーナーの話になると、オレも負けていられないと強く思う。

『帰ってくる頃には素敵なトレーナーになってるんだろうな。期待してるよ、ソウル』

コトネは確信犯だ。そう分かっていても、これ以上にオレを満たしてくれる言葉は存在しないのだろう。穏やかな旅だと思っていたものが、一瞬にして鮮やかな色に染められていく。
既に知られてしまっていて無意味だと分かっていても、そんな気持ちを悟られないようにと、オレはぶっきらぼうな返事をした。そしてコトネが切ったことを確認してから、ポケギアの電源ボタンを押す。
一人になって見上げた夜空は、多彩な色で描かれた美しい曇天だった。







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