(なんちゃって貴族パロでライコト前提+ヒビキ)



僕の婚約者が決まったのは、僕が物心ついたかどうかの頃だった。
彼女とは恋人と言うよりより親友に近い関係を築いてきて、そして。
僕たちはもうすぐ大人になる。


「コトネ。久しぶり」
「ええ。お久しぶりです」

彼女の小さく細い体を、軽いハグで迎える。その後彼女の従者と握手を交わし、大人たちに断ってから庭へと向かった。
ガーデニングに興味のある親戚はいない。おかげで細かく指定して作らせた家とは違い、この場所は庭師のセンスで四季折々の花が植えられている。季節ごとに色を変える開放的なこの空間は、僕のお気に入りだった。

「この花が好きなんだ。名前は分からないんだけど」
「私も知らないなあ。でも綺麗」

先程よりは少し砕けた様子のコトネは、柔らかく微笑んだ。
薄いピンク色の花はきっと今が満開なんだろう。昨日より一昨日より素敵に見えるこの花を、彼女に見せることが出来て良かった。そんなことを考えていると、彼女の従者の声がした。

「コトネ様。奥様がお呼びです」
「ありがとう、すぐ行く。じゃあヒビキ君、あとでね」
「うん。行ってらっしゃい」

小走りになるコトネの後ろ姿に手を振った。従者の側で立ち止まり、何かを話しているのが見える。
どうしたのだろう。多少不思議に思っている間に、今度は従者の方が僕の元へ近づいてきた。

「どうしたの?」
「コトネ様がヒビキ様のお側にいるようにと。ご迷惑でしょうか」
「ううん。一人になってちょっとつまらないなあと思ってたところだから。ソウル」

この従者の名前はソウル。コトネ専属の従者で、家族よりもよくコトネの側にいる、あまり歳の変わらない少年だった。それだけじゃない。

「窮屈だろうから、普通に喋ってくれていいよ。みんな来ないと思うから」
「……別に窮屈じゃねぇけどな」
「僕が友達にそういう態度を取って欲しくないんだよ」

ソウルはコトネの。そして僕の友達でもあった。


コトネが十になるかならないかの頃。コトネの後ろを、ぶかぶかの正装に身を包んだ赤髪の少年がついて回るようになった。
彼女は新しいお付きの者だと言っていたが、大人だらけの環境で、僕たちが友達になるのにそう時間はかからなかった。

子どもは身分や人種を気にしないと言う。だけど自分の立場くらいは心得ていたから、大人の前では婚約者とただ従者として振る舞った。きっと大人たちも黙認してくれてるのだろう、ということは薄々気づいていたけど。
僕は勘はいい方だから。

「奥様は何て?」
「さぁな。コトネを呼ぶ以外のことは何もおっしゃらなかったからな」
「そっか」

僕は話しながら花壇に足を踏み入れた。服汚れるぞ。ソウルの警告を無視して花を一輪摘み取った。それは花はさっき話してたものだ。
真っ黒な服に薄いピンクは映えるらしい。指でひとしきり回したり胸ポケットに入れたりしてから、服の汚れをチェックして元の場所に戻る。

「怒られないのか」
「大丈夫。庭師に許可は取ってあるよ」

今日の夕食の間に飾ってもらおう。甘い香りがしそうなこの花は、食事の場を多少和やかにしてくれるだろう。

「ところで、ソウル」
「何だ」

思い違いだったらごめんね。そう断りを入れるとソウルが訝し気な表情をする。もったいぶるつもりはないけど手中の桃色の花を指先で遊んで、そして切り出した。

「コトネのこと、好きなの?」

ただ口角を上げるだけじゃない温かい笑みを意識して顔を作ってみる。

「大事なお嬢様だ」
「やっぱりそっか。僕、そういう勘はいい方なんだ」
「……お前の婚約者だろ。あとその笑顔はなんだ」

抗議するソウルの眉間にはシワが増えていく。気持ち悪いか。分かりやすい態度に苦笑する頃には表情筋が疲れてきていた。
ソウルが時々彼女に向ける顔を真似したんだけど、ということはさすがに心の中に閉まっておく。

「でもコトネは友達として好きなだけだよ。昔は違ったけどね」

茎を持って煽りの角度から花を眺めると、それは淡い赤をしていた。桃色に負けず劣らずの綺麗な色で、僕はますますこの花が好きになった。

「今はどうなんだ」
「初恋はなんとやら……って聞いたことない?」
「……」

有名なジンクスくらい知っているでしょ、という意味も込めた言葉を発する僕は、どうやらあまり優しくないようだ。

「常識どうこうは置いといて。僕はコトネの意思を尊重したいと思ってる」
「……コトネは現状維持がいいらしいけどな」
「そうなんだ。知らなかったなー」

くるりと花を一回転。その姿は先程よりも眩しかった。

「自惚れかもしれないけどね。今のところコトネをいちばん幸せに出来るのは、僕なんだよね」

性格が悪いのかもしれない。普段の僕らしくないのかもしれない。
折れないように気をつけながらも、しっかりと花を握り締める。これも僕のものじゃないけど、簡単に誰かに渡したくはないんだ。

「それは自惚れなんかじゃねぇよ」

その瞬間、彼が唇を噛んだのは決して見間違いじゃない。

「事実だろ。それが」

大人たちの前では、彼や僕がこんな態度を取ることは許されない。
僕はある貴族の一人娘を婚約者に持つ、貴族の一人息子。彼はその婚約者の専属従者。

「……そろそろ戻ろうか」

日が少しずつ暮れてきて、寒さが増してきた。それにこの花を枯れてしまわないように早く花瓶に入れてやりたい、という思いもある。
もちろん摘んでしまったから長くはもたないし、そうしなくたって永遠に咲きつづけはしないだろう。でも一日でも長く美しく咲いていて欲しいと思うのは、きっと普通の感覚だと思う。

「寒いなあ」

厚着してくるんだったと今になって後悔した。一歩後ろを歩くソウルも言葉には出さないものの、肌寒そうだ。
庭から屋敷まで実はそれなりに距離がある。瞬間移動が出来たらななんて馬鹿なことを考えてみても、今の科学ではまだ不可能。魔法なんて全く縁もゆかりもない。

結局どんなに馬鹿な考えを巡らそうと、僕たちはこの寒空の中を歩くしか方法はないのだ。




end.



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とても自己満設定ですが楽しかったです。
ちなみにヒビキの好きの形はご想像にお任せします。というより実は私も分からない…




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