彼女は好きな人を傷つけたくないと言ったが、君がいなくなれば俺が傷つくという事実を告げれば、どうなるかなんて明白だ。コトネはまたここに通いつめ、本気を出してバトルの相手をしてくれただろう。
コトネの良心や愛情を利用するずるい案だが、俺にとっては非常に理想的で、思い付くまでにかかった時間はごく僅かだった。
しかし恐らく、コトネはこのことに気づいていない。それは、コトネが愛情を注いでいるのは美化されたレッド――つまり本来の、本性の俺ではない俺だからだ。今までの彼女の言動の数々からもそれは伺える。
美化された俺は、いつだって正々堂々としていて、立派で強い。卑怯なことは考えず、くじけたり後悔することはない。そんな具合だろう。だから俺がずるい思考をすることもしたことも、コトネが気づくことはない。

「……可愛いと言うべきか、愚かと言うべきか」

何とかは盲目という言葉があるが、まさしくコトネがそれだろう。だからと言って、コトネが向けてくれた愛情を疑うつもりはないが。
自分はコトネが考えているような出来た人間じゃなく、バトルが好きなだけのただの子どもだ。本当に立派な奴なら、コトネとの別れは自分から切り出すだろうし、そもそもこんな銀世界に居ないはず。
しかし俺は、可愛い後輩の気持ちを利用する程の悪人でもなければ、後輩に甘え続ける程プライドが低いわけでもない。
何度でも挑んできてくれる子がいなくなったのは悲しいけれど、感傷に浸っている暇はなかった。
何故なら、あの後輩は俺を今でも慕ってくれているから。その対象が美化された自分だとしても、後輩を落胆させたくないという、ただのくだらない自尊心だ。
美化された自分と現在で落差がどれ程のものか想像もつかないが、可愛いくて愚かで逞しい後輩のために、先輩としては努力するしかないだろう?


 それゆえ僕は舞台を降りる


立派な人間に、強いトレーナーになるからちょっと待ってて。

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