(20歳すぎのライコト。続くはず。)


この数年で何度か繰り返した問いを、ソウルは再び口にした。

「……お前は、いつまでチャンピオンでいるつもりだ?」

室内に響くのはワニノコを連れて旅をしていた頃より、うんと低くなったテノール。声に反比例するように高くなった体でソファーに座り直し、隣に腰掛ける女に目をやる。
視界に入るのは、パステルカラーの流行りのスカート、主張しすぎず肌色に合ったルージュ、シンプルだが値が張りそうなパンプスに、仄かに香るローズの匂い。ライバルとなって長い付き合いのソウルも誰ももう、彼女を少女と呼ぶことはできなかった。


初めてソウルがそれを尋ねたのは、ただの子どもの好奇心からだった。もしかすると、同じ年頃でチャンピオンを続ける少女に対するやっかみも少しは込められていたのかもしれないが。
とにかく少年だったソウルは、やたらと大きな帽子を被った、あまり背の変わらない子どもに何気なく聞いたのである。「お前はいつまでチャンピオンを続ける気か」と。
コトネはしばらく考え込んで「また旅に出たいと思うまでかな?」と軽い口調で答えを返した。この時のやり取りは何てことない世間話の一部だったし、その後何度も同じ質問を続けるようになるとはソウル自身も思っていなかった。


二度目に同じ質問をしたのは、コトネがチャンピオンになって二年が過ぎた頃だった。
多くのトレーナーがチャンピオンという座を目指しているのに、コトネは未だにその地位を守り続けていた。何度も何度も手合わせをしてきたから当然分かっている。チャンピオン戦で誰かに負かされることが想像できないくらいに、コトネは強い。
でも子どもにとっての二年というのは大人が思っている以上に長く、ソウルは少しだけ見下ろしてコトネに視線を合わせると、その質問を投げかけた。いつまでという問いに、大人になるまでかな?コトネは答えた。
大人になる姿をソウルもコトネも、思い描くことはできなかったけれど。

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テーマ「人外ファンタジー」
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