title by hmr



「腕枕、もしくは膝枕して下さい」
「嫌だ」
「じゃあ肩かして下さい。もう疲れちゃって」

慣れない場所との往復に加え、知らない人に囲まれながらの連戦と食事とインタビュー、その他諸々。朝から晩まで休む時間がない程の過密なスケジュールを思い出して、よく乗り切ったものだと自画自賛する。
その事情を把握してくれている先輩はしかめっ面だけど、肩にもたれかかっても文句を漏らすことはなかった。ねぎらいの言葉が掛けられることはなくとも、努力していたり弱った人間をぞんざいに扱うことがないのは、この二年間で学習済みだ。

「なんか、帰ってきたって感じがします」
「気のせいだ」
「そうかもしれませんけどね」

しかし疲れがどっと押し寄せてくるのは、私がこの先輩に安心感を覚えているからだろう。落ち着く場所を求めて頭を動かしていると、先輩から抗議のような説教のような声が上がった。

「あんまり他人に、簡単に甘えんなよ」
「……嫉妬ですか?」
「落とすぞ」
「冗談です。というか先輩にしかこんなこと出来ませんよ」

誰にでもこんな甘え方をする奴だと思っているんだろうか。もしそうなら非常に心外だ。今のままでは一生、先輩を好きになることはなくて。そして先輩も同じ条件だから行動してるまでだというのに。

「じゃあ、先輩はコトネさんに同じことが出来ますか?」

先輩から答えはなかった。それが何よりの答えなのにな、と心の中で呟く。

「ちょうどいいんですよね」

肩にもたれ掛かってみると、なかなかに良い身長差だと言うことに気づく。冷え性だという先輩の体温は、仄かに温かいと感じるくらいで、それがまた安心感が増す要因となっているのだろう。

「……逃げるなよ」
「先輩にですか?」

会話はまたそこで途切れた。確かに、彼から先輩へ乗り換える利点はあるのだけど、どれも現実味のあるものとは思えなかった。というか、それは遅すぎる質問だろう。

「逃げられるなら苦労しませんよ」

漏れた声は想像以上に弱々しかった。
返事は、やはりなかった。


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