title by hmr


「Nと出会えて本当良かったよ。いっつもあれじゃ疲れちゃう」

愚痴っぽくて悲観的で滅多に笑わない。それがボクの知っているコトネの姿だった。今日も僕の泊まっているポケモンセンターの一室に押しかけて、我が物顔でこの部屋のベッドを占領している。

「とりあえず、お疲れ様」
「ありがとう。ねえ私と結婚しない? 一人くらいなら養ってはあげられるよ」
「そんな恐れ多い」

出会いはただの偶然で、けれどその時からボクは彼女の本性を見抜いていた。レシラムにもっと会いたいと言った彼女と、気の向くまま旅をしていたボクは徐々に親しくなっていった。そして、彼女が本性を見せてくれるようになってからは急速に。今は友達以上恋人未満と言ったところだろうか。

「でも疲れるならやめたらいいのに。あの性格」
「もうあれは癖みたいなものだし、それにこっちもあっちも私だから」
「ニンゲンっていうのは大変だ」

そうなのよ、と言って煙草を吹かすような仕草をしてみせるコトネ。愚痴っぽい時の彼女は冗談も多い。ボクは小さく笑ったが、何も面白いと思ったからではない。こう返せば彼女はそれなりに満足してくれるだろうと予想したからだ。
ボクたちの関係を友達以上恋人未満などと称したが、彼女に愛情を抱いたことはこれまでに一度もなかった。可哀相と思ったことも同情したことも、逆に不快な気持ちになったこともない。
友達ごっこや恋愛ごっこをすればボクも多少ニンゲンらしくなるかもと思ったが、そんな兆しは今のところない。思い返せば大半のニンゲンに対して、何かを思ったことがなかった。ボクはボクやトモダチ達のためにだけに、怒り、悲しみ、喜ぶのだ。やはりボクはバケモノと呼ばれても仕方ないのだろう。最近ではそう納得し始めていた。

「……N?」
「ん、ああ、どうしたの?」
「何か考えつめていたみたいだったから。大丈夫?」
「大丈夫。ただ婚約指輪って高いんだろうなって考えてただけだから」
「私は指輪より新婚旅行の方がいいかな。それより、私のこと好きじゃないのに?」
「そんなこと」
「あるでしょ。正確にはなんとも思ってない、なんだけど。あ、気にしないで。怒ってるわけじゃないから」

伊達に他人から社交的と言われる存在じゃない。隠していたわけでもないから、別に知られて困ることもないが、純粋に凄いなと思った。

「でも安心して。ちゃんと私のこと好きになってもらうから」
「それは……楽しみだ」

彼女の口調は強いものだった。悲観的な彼女がそう言うなんて、よっぽど自信があるのか。

「私だけじゃなく他の人も、好きに嫌いになってもらう」
「……へぇ」
「人間っていうのは大変だけど、Nも同じ人間だよ。私がどうにかするから、逃げないで。私も逃げない」

お人よしは根っかららしい。こんなボクを何とかしようとするなんて。どうにかと言うあたり、まだ具体的な策はないのだろう。自信があるんじゃなく、これは意志だ。ボクはそう思った。
ボクがトモダチを愛していることも、幼少期をトモダチたちに囲まれて暮らしていたこともコトネは知っている。その上でボクをニンゲンにする、というのだからスパルタもいいところだ。
トモダチたちに近づける案はないのかと問うと、だって今のNって姿以外はポケモンみたいなものでしょという返答。思い当たる点はたくさんあって、反論の予知はなかった。

「Nにやる気があるなら、握手しようか」
「……分かった」

こちらにいるのは簡単だけど、ボクは右手を差し出した。彼女が戦ってまで守り抜いた世界を、少女が大変だと言いながらも懸命に生きているこの世界を、ボクも同じ立場から見てみたいと思った。

「それじゃあ、よろしくね」

コトネはそう言って、素敵に微笑んだ。



end.


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