(ただライコトがいちゃいちゃしてるだけ)


心地良いと気持ち悪いの中間くらいの、奇妙な感触が唇から伝わる。明らかに私のものでない熱は、冬の外気に晒された体を僅かだが温めてくれた。
その間数秒程度。ぜろ距離から緩慢な動作で離れたソウルが、ため息をつく。

「……冷静過ぎて腹が立つ」
「別にそんなことは。えっと、触る?」
「別に、いい」

余計なことを考えたりはしたけど、心拍数も体温も確かに上がっている。そう思うならと首を差し出したけれど、呆れ顔のソウルに拒絶された。何で。

「一応聞いておくが。挨拶か何かと勘違いしてないだろうな」
「それは、うん。だってソウル顔赤いし」
「うるさい!」

自分から不意打ちで仕掛けておいて照れるなんて、予想通りだけど可愛い反応。でも指摘すると不機嫌になるのも分かっているから、からかうのはこの辺にして話題を元に戻す。別に私も態度には出ていないだけで、冷静なわけじゃないんだけどなあ。

「でも私が冷静に見えるとしたら、それは歳のせいかな」
「歳?」
「もう子どもじゃないしね。このくらいで分かりやすく動揺はしないよ」
「……言ったな」

あ、間違えた、と思ったときにはもう遅い。ソウルの目は本気で怒ったときのそれに似ていたし、距離の詰め方も先程みたいに生易しいものじゃない。

「ところでソウルって、いつも手加減してるよね」
「当たり前だろうが」
「たまにはしなくてもいいのにね」
「……黙れ」

乱暴になっていく言葉遣い。自分の身を案じるならじっとしていればいいのに、手加減なしの彼はどうするのだろうと気になって言葉を紡いだりして。やっぱり、冷静な人はそんなことしないと思うんだけど。
再び端正な顔が近づく。微かに香るシャンプーの匂いに包まれたような錯覚を覚えるのだった。


end.


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テーマ「人外ファンタジー」
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