ラフな私服の男と、きっちりとしたパンツスーツの女がテラスで向かいあってバーガーに噛り付く様はいかがなものかと思ったが、それを気にもしない辺りがコトネらしい。
昼前とは言え人通りはそれなりで、テラスなど天候に左右される不衛生な場所でしかないと思うのだが。子どもみたいにはしゃぐコトネを見ていると、まあいいかと納得してしまうオレにも非はあったのだろう。

「綺麗に食べるよね」
「…拭っとけよ」

ソースで汚した口元も、首からかけたナプキンも、服装と合わないその姿はあまり人様には見せたくないものだった。ご馳走様でした、と満足そうに手を合わせる姿はコトネらしくはあるのだが。頬杖を付きながらぼんやりと眺めていると、一つのことに気づいた。

「あ。スーツ似合わねェのか、お前」
「ドレスのときだって同んなじこと言った」

もう少女という年齢ではないのに、唇を尖らせる仕草はとても自然に見える。というかドレスに関しては、全部が似合わないとは言ってないだろうが。

「参考にしてるのが、シロナと。あと」
「カミツレさん」
「そう。だから駄目なんだよ」

ヒビキなんかが聞いていたら、もう少し言い方があるんじゃないかと非難されそうだが、多分この程度じゃコイツの意識はこれっぽっちも変わっていない。その証拠に、コトネはなんでもなかったように鞄を手にし、立ち上がった。

「そんな時間か?」
「うん。今日は会場の案内もしてもらうから、早く行かないと」

時間を示すために指された腕時計は、シルバーと薄い桃色のシンプルなデザイン。パンツスーツとの相性は、まあそんなものだ。

「……今度、ドレス買いに行くか」
「ほんと?  じゃあ、私が今日勝ったらプレゼントしてくれるとか」
「負けることがあるのか?」

ケチだとかなんだとか下らない言葉を浴びながら、余裕があるとは言えない財布の中身へと考えを巡らす。ぎりぎりなんとかなるか、と判断したときには、時間が差し迫っていたようだった。六時からデモバトルで、五時から入場開始だからね。コトネが早口で今日の予定を告げてくる。

「かっこいい?」
「はいはい、かっこいいよ」

心の篭ってない返事だったが、それでもにっ、と満足気に笑ったコトネは、ヒールを不規則にならして駆けていく。慣れないヒールで怪我しなきゃいいけど。
バトルのときだけ覚醒する背中を見つめながら、そんなことを考えたのだった。

end.

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本当は1122の付近であげたかった…。
ソウルが見事にコトネに関してしか考えていなくて、私がびっくりです。

ちなみに腕時計はソウルがあげたもの、というどうでもいい設定があります(笑)