08/28(04:22)

双子として生まれた僕らは、いつでも一緒で、そしていつまでも一緒だった。

幼い頃から両親は家を空けていることが多く、家事や僕らの世話は他人行儀やお手伝いさんがやってくれた。幼稚園から高校までエスカレーター式で上がった僕らには、徒歩で会えるような友人はいなくて、その結果僕らはずっと二人ぼっち。喧嘩はしなかった。というより、あまりにも二人だけだったから出来なかったんだけど。引っ込み思案の僕は、弟とずっと一緒のそんな日々が嫌いじゃなかった。
一卵性の双子で生活も殆ど同じだったせいか、僕と弟はよく似ていて間違えられることも多かった。それを面白く感じたという建前で、僕らは髪型も喋り方も同じにした。二人でお揃い。その言葉が僕は大好きだった。

「素敵な人に出会ったんだ」

中学生のある日、僕らに転機が訪れる。買い物に出かけた時に出会った女の子を好きになってしまったらしい。

「話してるとすごく盛り上がって、でも早く帰らないとお手伝いさんたちが心配するからって言ったら、アドレス教えて貰っちゃって」
「そう。……でも、それは駄目だよ」

僕たちは恐らく生まれてはじめての喧嘩をした。思い返せばこの時にはもう、僕と弟は二人きりじゃない世界への道を歩いていたのだろう。きっとその夜、弟は例の女の子にメールしただろうし、僕は僕で思いを寄せる人と連絡を取っていたのだから。

「それって変だよ」
「じゃあ、お兄さんの方を好きになってもいいのかい?」

そこから紆余曲折を経た後、僕と弟の関係性が変化する日は突然やってきた。

「二人は似てるね、って言われるのが僕は好きだったんだ」

僕は弟に全部話した。告白した。髪型も顔も服装も口調も体型も食べ物も趣味も曲も本も。同じものを好きでいて、同じものを嫌いでいたかった。でも駄目だった。

「僕は……男の人しか好きになれないんだ」

恐らく弟は当然のように女性を好きになって、そして僕は当然のように男性に恋をした。その段階でもう駄目だったんだ。

「あの人が僕以外を選んだら、きっと耐えら得ない。もしそれが僕と瓜二つの弟でも」

数日後。僕たちは美容院に行って別々の髪型にして、違う店で服と靴を買った。夕方に出会った僕と弟は、きっと言わなければ双子だと分からない姿だった。そっちの方が似合ってるよ。お互いにそう言って、恥ずかしいねと笑った。


「思い出すと、これってなかなかいいシチュエーションだよね?」
「……僕に同意を求めないで欲しいんだけど」

庶務二人しかいない生徒会室で弟が口を開いたら、何を言い出すかと思えばこれだ。同じ漫画が好きだった女の子を素敵と称した弟は、見事に彼女に染められていっているようだ。

「あとは、兄さんが初恋の相手と未だ熱々で続いてたら言うことはないんだけどなあ」
「そんなわけないじゃん。あんな浮気男、惚れた僕が馬鹿だった」

ちなみに僕が好きだったのはその当時の担任だったんだけど。後に浮気が発覚して、僕はあの人の交遊歴を洗いざらいバラして捨てた。あの人のことは、弟風に言えば黒歴史だ。

「まあ俺も別れて正解だと思うけど。で、やっぱり次は寡黙な同級生がいい感じ?」
「な……何の話?」

尋ねても、弟はにやにやと笑うばかりで答えなかった。とはいえ何の話であったとしても、僕が今後どうしようともからかいの、弟風に言えば萌えの対象になるのは真っ平御免なんだけどね。
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