08/28(01:38)

みんな放課後に何かしらの用事があったらしく、今日はおれが生徒会室一番乗りだった。一人分だけお茶を淹れるのが詰まらないと感じるようになるなんて、おれも随分ここに染まってきたみたい。いつものようにデスクトップの可愛いくまさんに癒されてから、後は黙々と作業を進める。そして時計に一度も目をやらないまま、キリのいいところまで進んだその時。ようやく生徒会室の扉が開いた。

「俺が二番目か?」
「あ、会長お疲れー。コーヒーでいい?」
「おう、サンキュー」

会長様の好みはブラックじゃなく、角砂糖を二つ程沈めたもの。普段の食事は肉も好きだけど、オムライスやパフェなど可愛らしいものからジャンクフードまで、何でも好きだと言う。最初は俺様会長とのギャップに驚いていたけど、今はかっこ良くブラックのコーヒーを飲む会長なんて想像が出来ない。

「ふぅ。副会長がいないと気が安らぐな」
「またそんなこと言ってさあ。まあ黙っておいてあげるけど」
「やっぱりお前はいい奴だな」

おれは副会長がいないと、会長の仕事が進まないんじゃないかと不安で仕方ないけどね。そんな気持ちは恐らく届いてなくて、会長はノートいっぱいに何やら文章を書いている。

「それって何?」
「新入生歓迎の生徒会による演劇の脚本」
「え。それって毎年演劇部が書いてくれるんじゃなかったっけ」
「いや、面白そうだったから書かせてくれって頼んだ」

明後日までに出来ないと演劇部部長に怒られるんだそうだ。少し見せてもらえばおれたちの性格や特性に合わせて作られてることが分かる、ちょっとコミカルなファンタジーもの。ただ副会長が退治される魔女役なのは、何らかの悪意を感じるけど。内容はなかなかの出来なんだけど、目を輝かせながらペンを走らせるその情熱が、少しは仕事の方に向けばなあ。

「そういや、会計。お前今日の髪型いいな」
「でしょー?親衛隊の子に教えてもらってねぇ」

残念なことにおれにはファッションセンスというものが皆無だ。ストライプの上下で親衛隊のお茶会に行って以来、日替わりで親衛隊の誰かが髪や服装を弄ってくれる。

「やり方さえ分かれば髪はどうにかなるから良いよねぇ」
「色々似合うからいいよなお前」
「うわぁっ! もう会長、急にぐしゃぐしゃするのやめて!」

素直に悪いと言う会長に悪気はないみたいで、口を尖らせながら髪を整える。そういえば。会長の興味は次々と飛んで行く。

「お前のとこにあったゲーム、またやりたいんだけど」
「うん、いいよー。あ、でも今日は駄目。親衛隊の子たちが来るから」

みんなでやればいいだろ、と簡単に会長は言うけど。良くも悪くも、会長は自分の立場や影響力の大きさが分かってないんだよねぇ。

「会長が来たらみんな萎縮しちゃうからだーめ!」
「ケチ」
「会長が拗ねても、ちょっとしか可愛くないんだからっ!」

庶務の二人がやってくれたら答えは変わってたかもしれないけど。でも今日は親衛隊の子たちと一緒に、トランプしたりお話したりする予定だったから。

「だから明後日以降ね」
「……その親衛隊の奴らとの集まりって減らせねぇの?」
「何?おれと遊びたいの?」
「そうじゃなくて。あー……まあ、いいか。何でもねえよ」

会長の歯切れの悪そうな様子と親衛隊というワードで、言いたいことは何と無く伝わった。喋り方か普段の素行か見た目か、どのせいかは分からないけど。おれが親衛隊を彼女代わりにしているというのは、よく知れた噂だ。実際はそんなことは一度もないんだけど、いちいち否定するのも面倒だし、校風やこの容姿のおかげで責められることもなく、学校生活は実に平和なもの。だからおれは、あまり気にしてないのになあ。

「会長は優しいねぇ」

今度はおれが会長の髪を撫でた。そのせいで機嫌を悪くした会長は、やっぱりちょっと可愛かった。
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