中編 | ナノ
01
アンネの恋人は 賞金首億超えルーキーの一人、『死の外科医』の異名を持つトラファルガー・ローである。今日、そのロー率いるハートの海賊団の船はとある島に停泊した。今度の航海では長いこと島に着かなかったので、ローの恋人兼舟の雑用係のアンネは、いつものごとく買い出しやら洗濯やら掃除やらの急がしい一日を想像していた。
アンネは雑用係である自分の仕事は割と嫌いではなかった。むしろクルーたちの役に立てることがうれしくて率先してやるものだった。
そんないつも自分たちのために一生懸命なアンネに心動かされたクルーたちは、自分たちが仕事をするからたまには遊んで来いとアンネに休暇を出したのである。
休暇をもらったアンネはクルーたちに感謝しつつ、そろそろ古くなってきた洋服を買い替えようと、ベポを連れ、島に降り立った。
船が止まったのは島の南西、港町が栄える島の南までは歩いてすぐである。
アンネは「よかったね、アンネ」と嬉しそうに言うベポに優しい笑顔で返し、小さな民家の建ち並ぶ集落の町へ続く小道を歩いた。微かに海の匂いのする、心地よい風がなんとも穏やかだった。
町に着き、アンネとベポは目についたかわいらしい洋服屋に入った。お店の中を見る限り、あれもこれもアンネの好みの洋服ばかりだった。「アンネならどれが似合うかなー…。」と眉間にしわを寄せ真剣に悩んでいるベポを微笑ましく思いながらアンネも、自分に似合う洋服を探した。
しばらくしてアンネは花柄のふんわりした白いブラウスに白いクマが描かれたピンク色のTシャツ、青い涼しげなキュロットにオールインワンで口お紅や小さな瓶が描かれた薄ピンクのサロペットを早々に選んだ。お会計を済ました後、まだ悩んでいるのであろうベポを探した。
「あったーーー!!」
突然、ベポの大声が聞こえた。店内のお客全員が何事かとベポを見やる中、その視線など気にも留めず、猛ダッシュでベポはアンネのもとまでやってきた。
何事かと顔をしかめたアンネは、目の前で膝に手をつき、ぜえはあ肩で息をしているベポの頬に手を添え、「どうしたの?」と心配そうに聞いた。
すると、ベポは勢いよく体を起こし、持っていた洋服をばっと広げて見せた。ベポの手には胸元にかわいらしいフリルをあしらい、肩もとの膨らみはレースで半透明に施され、裾はシンプルかつ美しく仕上げられた可愛さと上品さを兼ね備えた純白のワンピースが握られていた。
「か、かわいい…。」
ベポの行動にあっけにとられながらも、アンネは目の前に突き出されたワンピースに目を奪われた。「絶対似合うよ!!」と太鼓判を押すベポ。アンネはそれが欲しくてたまらなくなった。
「でも…。」アンネは小さくそう呟いて、目を伏せ、うつむいて言った。
「これじゃ私、お仕事できないよ…。」
「あ…。」
見ればそのワンピースは丈がかなり短い。雑用係のアンネは立ったり座ったりすることが多いので、スカートをはくとよからぬ心配が増える分、男ばかりのクルーを誘惑してならないのだ。ましてや丈の短いこのワンピースは少し前のめりになっただけで危なそうだ。
目の前で「ごめんね…。」と肩を落とすベポを申し訳なく感じたアンネは、両手を胸の前でふり、「気にしないで。」と笑って言った。
「それにほらっ!」
アンネは気をとり直して今買ったばかりの紙袋をがさごそとあさり、探し当てた一着を「じゃーん!」という効果音とともにベポに見せた。
「え?これって…。」
「うん!ベポだよ!」
二カッと笑いながらアンネが得意げに見せたそれは先ほど買った白いクマが描かれたTシャツだった。
「アンネ…。」
アンネの優しさを間近に感じ、ベポはそれ以上何も言えずに、代わりにばばーっと大量の涙を流した。
「あーもう泣かないの。」アンネはポケットから取り出したレースのハンカチでベポの涙をふきながら子供をあやす様に言った。ほんとにベポはかわいいなとアンネの口元は自然に緩んでしまった。
「さ、帰ろうかっ。」
一呼吸おいてアンネはハンカチをしまい、店の出口へと足を進め始めた。
「え…?もう…?」ベポはアンネの行動が理解できず、立ち止まったまま聞いた。先ほど来たばかりなのにもう帰るのかとベポは思った。
「せっかくのお休みだし、もっと遊んで行かないの?」
するとアンネは振り返り、数歩離れていたベポの元まで歩き戻った。
「みんながお仕事してるのに、私だけ遊んでちゃ申し訳ないもの。」
アンネはベポの手をぎゅうっと握り、子供のような無垢な瞳でにこりと笑った。洋服はもう買えたし、アンネは自分のために仕事を変わってくれる大好きな仲間たちのもとに早く帰りたかったのだ。
「アンネ…。」
困ったような、感心したような声色でベポはアンネの名前を呟いた。
「なあに?」
「じゃぁオレにそれを持たせて!!!」
ベポはアンネの腕にかけられている紙袋を半ば強引に奪った。ベポにはよくわからなかったが、どうしてもアンネの役に立ちたくなったのだ。
「ありがと。」
アンネとベポは手をつないで、仲良く来た道を帰って行った。
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