現パロで世界滅亡ネタ




今日を持って世界は終わるらしい。
誰の手でだとか、どうしてだとか、そんなことは俺に分かるはずもないけれど、ただ思うに、終わりなんてものはいつだって呆気ない。

朝、いつも通りの時間に起きていつも通りの行動をする。
自分の中で決められたルールに則って、淡々と。

ふと顔を上げて気付いた。世界は息を止めたように静かだ。
テレビをつけても映るのは砂嵐、外からは車が走る音も人の声すらも聞こえない。
俺だけが1人取り残されたみたいで、本当はもう世界は終わってて、息をしてるのは俺だけなんじゃないかって、不安で仕方なくて思わず外に駆け出した。
誰でもいいから俺と一緒に呼吸してくれる人を探して、探して、走った。
どれだけ走ったかわからないけれど、探し回った末に辿り着いたのは文次郎の家だった。
いるかどうかもわからないのにそっとドアノブに触れて、少しの期待を込めて回してみる。
カチャリと、案外大きな音を立てて扉は開いた。


文次郎の家も静寂に支配されていた。廊下に響くのは自分の足音だけで、ああ、やはり自分は世界に取り残されてしまったのだろうかと、どうしようもない不安に駆られた。

息を止めて、そっとリビングを覗き込む。
薄ぼんやりした明かりと、静寂だけが存在するその場で、文次郎は床に座って砂嵐をただぼんやり見つめていた。

「いくら今日みたいな日だからって、鍵くらい掛けとけよ」
無意識に安堵の息が漏れたのには気づかない振りをして、文次郎の背中にいつものように軽い口調で言葉を投げた。

びくり、と文次郎の肩が軽く跳ね、体がこちらを向く。
文次郎は突然の俺の訪問に言葉が出ないようで、口をはくはくと動かし、絞り出すかのような小さな声でぽつりと呟いた。
「留三郎…お前何でここに…」

「…お前の顔が頭に浮かんだから。」

「家族とか…いいのかよ…」

「ばっかお前、交通機関は全部止まってるっつうの。それに…なんて言うか、ただ、無性にお前に会いたかった。」

「…俺も、お前に会いたかった…」

視線がぶつかる。
こんな時だというのに、文次郎の目に写り込む俺の目は、熱に浮かされたように、欲望の色を灯していた。
それと同じ感情を文次郎の瞳の中にも見ることが出来た。

どちらともなく指を絡めて、そっと触れるだけのキスをした。

「ずっと、伝えたかったことがある。遅過ぎるとは思わねえ。今だから、伝えられる。…文次郎、好きだ。」

「俺も、ずっと好きだった。」
文次郎の言葉を飲み込むように口付けをする。
今度は角度を変えながら何度も、何度も、深く深く、吐息すらをも奪うように、キスをした。
そしてゆっくりと、2人で床に倒れ込んだ。




2人生まれたままの姿で毛布に包まれて、静かに終わりを待つことにした。
最後に文次郎と結ばれることが出来て、良かったと思う。
最中に文次郎は言った、
「このまま1つになって終わりを迎えたい」と。
でも、少しでも長く文次郎といたくて、最期まで言葉を交わしていたかったから、文次郎には諦めてもらった。
残された時間は後どれくらいなのだろう。
改めて話すとなると、内容なんて思い付かなくて、ただどうしようもないことをぽつり、ぽつりと、雨粒のような会話を交わした。

ああ、いいことを思い付いた。
1つにはなれないが、さっきの文次郎の願いを、限りなく近い形で叶える方法だ。

「なあ、文次郎、残った時間全部使って何回キス出来るか試そうぜ。」

「…ばかたれ…」

憎まれ口を叩きながらも、どこか嬉しそうな文次郎の唇に、自分を刻みつけるように、噛み付いた。
1回、2回、3回、4回、5回…




そして、100万回のキスと同時に、世界は俺たちに別れを告げた。


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2013年5月24日加筆修正


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